なぜ「涼宮ハルヒの憂鬱」はセカイ系なのか
「外部産出型」としてのセカイ系
「涼宮ハルヒの憂鬱」の最終回を見たが、なかなかおもしろいかった。最終回の前半まで退屈が描かれ、突如クライマックスが訪れる。ボクは「涼宮ハルヒの憂鬱」が「セカイ系」の構造があるといっていたが、最終回はまさにそのものの展開として終わった。
ボクは、「なぜ「デスノート」はセカイ系ではないのか」*1においてセカイ系を以下のように説明した。
■セカイ系は、無理矢理にでもハルマゲドン(外部)を産出しようとする表現=「外部産出型」の系列にある。
■外部産出型は、「内部/断絶(ファルス)/外部」の構造を持つ。社会(大きな内部)の閉塞感の中で断絶(ファルス)の存在が外部への道を開く。たとえば「デスノート」では断絶(ファルス)とはデスノートであり、外部とは死神界である。
■「外部」とは、未知であり、なんの背景もなくただ不気味に殺戮にやってくる敵である。そしてこちらもなんのためらいもなく殺す。それらに享楽(純粋略奪の快楽)がある。「デスノート」では死神界の力としてノートに名を書かれるだけで殺される。そこには善悪という内部の倫理は関係しない。
■外部が産出されることは、繋がりが希薄化した社会(大きな内部)に外部に相対化された強い繋がり(小さな内部)が再生産される効果がある。「デスノート」ではキラをもとに狂信的な世界が生まれる。あるいはライトとエルの対決という内部の強い繋がりが可能になる。
外部産出型
内部(閉塞した日常)/断絶(ファルス)/外部(未知)
■しかし「デスノート」は外部産出型ではあるが、セカイ系ではない。
■セカイ系では、外部産出型の構造を純化され、「内部/断絶(ファルス)/外部」=「反省的な主人公/戦闘美少女/漠然とした敵」の構図をもつ。
内部(閉塞した日常)/断絶(ファルス)/外部(未知)
=反省的な主人公/戦闘美少女/漠然とした敵
■「反省的な主人公」とは閉鎖する内部の象徴である。豊かであるが退屈な日常、学校生活で内省する主人公という閉塞感。そこに「断絶(ファルス)」としての「戦闘美少女」というが表れる。それによって、閉鎖的内部の向こうに不気味な「外部」が産出され、享楽する。
■「戦闘美少女」とは、無垢なヒステリー性、セクシュアリティ、道具性を特徴とする「断絶(ファルス)」であり、オタクが「萌える」倒錯の対象である。
「涼宮ハルヒの憂鬱」のセカイ系の構造は、「反省的な主人公/戦闘美少女/漠然とした敵」=キョン/ハルヒ(有希)/意味不明な位相空間に対応する。
内部(閉塞した日常)/断絶(ファルス)/外部(未知)
=反省的な主人公/戦闘美少女/漠然とした敵
最終回でこの構図が明確に表れていた。ハルヒの「退屈をはらすおもしろいことを求める」というヒステリー性、そしてセクシュアリティが、位相空間とともに意味不明な怪物(外部)を産出する。というか、世界そのものがハルヒによって形成されるということが「断絶(ファルス)」そのものを設定としている。
「なぜ意味不明な怪物が表れ破壊するのか」は、まさにそれが享楽のイメージであるからだ。なにがなにかわからない圧倒的な暴力と破壊。それにハルヒが享楽し、視聴者のボクたちも享楽する。より正統な「戦闘美少女」ならば、「エヴァンゲリオン」で使徒を「虐殺」するように、ハルヒは血しぶきとともに怪物を殺戮するべきであるが。
さらに「退屈からの突如クライマックス」が享楽を強調する。外部と内部となんの繋がりもないのだという「断絶」の強調であり、それは恐怖でなく、享楽なのだ。
そしてこの外部の出現がキョンに内部への回帰を生み出す。「みんなにもう一度会いたい。」そして「ハルヒが好きだ。(ハルヒとの退屈な日常を愛する)」と内部を再生産される。もとにもどった日常はなにも変わらない。しかしキョンの中で(小さな)内部への思いは強くなっているのだ。
これがまさに、セカイ系の構造であり、ボクたちが「セカイ系を見る快楽」である。
「大いなるワンパターン」としてのセカイ系
正確には「涼宮ハルヒの憂鬱」は「あえてセカイ系であることを見せる」というセカイ系のパロディの面が強かったが、最終回でベタな「セカイ系」でオトしたのはやや物足りなさもある。しかし「セカイ系」の構図とはオタク作品そのものの根底に流れる大いなるワンパターンではないだろうか。だからいつもそこへ回帰するところと言えるだろう。
*2
*1:参照 なぜ「デスノート」はセカイ系ではないのか(前編) http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20060630、なぜ「デスノート」はセカイ系ではないのか(後編) http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20060701、[議論]なぜ「デスノート」はセカイ系ではないのか(前編) http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20060702