経済・欲望論による現状分析 経済・欲望論 その2



「消費サイド」の非金銭経済化


今回の不況はベタにケインズ的だった。本質はサブプライムローンなどの金融バブルであったが、リーマン破綻というショックが一気に市場への信用を冷え込ませ経済を縮小した。さらに暴露されたのは「情報の非対称性」である。新自由主義といいながら、アメリカの政府と証券会社の戦略と独占があった。「投資・生産サイド」が多かれ少なかれ自己中心的、独占的、守銭奴的構造を持つことは資本主義のはじめからかわっていないといえる。

むしろかわってきたのは「消費サイド」だろう。大量消費から記号消費、二次創作などの自立的な物語消費をへて、そしてネットの発達とともに生産手段が安価になるなかで、生産と消費の境界が解体しつつある。もはや生産者が商品を生産し消費者がそれを消費するという分離構造は解体され、混在して生産・消費運動を生み出している。

それにより生産と消費を繋いでいた貨幣の重要性は低下している。そこに生まれる「非金銭経済」である。そしてそこで重要であるのは貨幣ではなく、「関心」である。どれだけ人々の関心をひくか。




生産消費者(プロシューマー)は懐貧しく、心豊か?


ここでの「非金銭経済」はトフラーが考えるような金銭経済を活性化する「生産的」なものとはいえないだろう。新たな非金銭経済は、動物(自己満足)的、オタク(趣味)的であり、必ずしも消費額を増やさない。そして総生産額も増えないことで、金銭経済規模は伸び悩むことになる。

そして「生産消費者(プロシューマー)」は非金銭活動とは別に生活の糧をえる必要があるが、経済そのものが冷え込む中では十分な収入を期待できないだろう。現に企業収益の調整弁にされ、下層に位置づけられたりしている。

このような傾向は、金銭経済として考えれば、負のスパイラルに陥っていることになる。しかし経済成長を至上命題にする金銭経済が曲がり角にくる中で、非金銭経済を重視する生産消費者は、低成長経済でも豊かに生きるという新たな流れとみることもできる。




投資家のアニマルスピリットは資本主義の原動力


投資家はいつも資本の新たな投資先を探している。他の投資家が大挙して上陸する前にいかに早く「フロンティア」を見出して、投資し、先行既得によって市場の独占できるか。イノベーションとは新たな技術開発であるよりもそれが投資に値するだろうフロンティアとして見出されことで現れる。先行するのはリスクも高いが、「血気(アニマルスピリット)」は資本主義経済の本質的な原動力である。

資本主義経済は、遠隔貿易(重商主義)、農業改革(重農主義)、産業革命というイノベーションによってテイクオフしたが、それぞれのタイミングは技術開発よりも、魅力的な投資先をして見出されたことが大きいと言われる。そして産業革命以後、大量生産(フォーティズム)などを経て現代のIT革命まで、経済を成長させるイノベーションは技術開発主導で進められてきた面が強い。




投資は内需から外需へ


現代においてIT革命によって促進された非金銭経済の増大は、経済成長を停滞させている。新たな生産消費者がうまれ、貨幣よりも「関心」を重視して労働している。このために投資はいままでの技術開発による内需型のイノベーションから、外需型のイノベーションへ向かっている。

たとえば(産業)グローバリズムの本質とは、優秀な途上国に資本を投資することで高度成長するフロンティアへと育てることにある。投資家のアニマルスピリットが世界規模で新たな成長地域を見出すことで(産業)グローバリズムは進んでいる。

あるいは金融革命も外需型いえるだろう。主に内需停滞で投資先を失った先進国の資本をターゲットに、あらたな金融商品を提供する金融市場そのものが生み出された。今回の金融不況でその無謀な商品化が問題になったが、資源投資など今後も有望なフロンティアであり続けることにはかわりがないだろう。




環境対応分野はイノベーションとなりえるか


IT産業の次に内需型として期待されているのが環境対応分野である。しかし環境対応が次のイノベーションとなりえるか。ここには、環境対策と経済成長の両立が成り立つのかというディレンマがある。

そもそも環境対応は製品に対して新たなコスト負荷となる。生産者も消費者も敬遠する。このために政府による規制や補助金などの指導がなければ育たない。たとえば補助金を打ち切ったとたんに売れなくなった日本の太陽電池のようなことは環境対応ではよくあることだ。

環境製品を政府の補助によって安く購入するといっても、もともとの出所は税金であって、結局は政府が経済成長を促すために、特定の商品を購入するように誘導していることになる。だからイノベーションとなるためには政府の誘導がなくなったあとにも、魅力的なフロンティアであり続けるかがキーになる。




金銭経済と非金銭経済の二層化


特に内需が非金銭拡大・低成長経済へ進む背景の中で、経済成長を促進しつつ環境対応する方法論は有用のだろうか。むしろ放任すれば経済活動の停滞によって環境負荷が低減するのではないか。このような考えるに非金銭経済拡大・低成長経済も、一つの新たな適応形態と言うことができる。

内需は非金銭経済拡大・低成長経済にむかい、生産技術者は金銭的には貧困化する。そして投資家は外需の新たな市場(フロンティア)をめざし豊かになる。ここに現代の本質的な格差構造があるといえる。

しかしこのような新たな傾向は格差という金銭価値だけではかれるものではないのだろう。そこにいままでの金銭経済と非金銭経済の価値観の断絶があると言える。それらは対立するわけではなく、二層化の傾向が強まっている。