なぜマクドナルド型生権力が社会を全包囲するのか マクドナルド型生権力の見取り図 

pikarrr2009-06-23

マクドナルド型生権力の見取り図について。作れば売れる時代が終わり、経済成熟期に入ったいま「いかに儲けるか」(利害関心)が複雑、巧妙になっている。ここでいう「儲ける」(利害関心)は、経済活動が活発し雇用が生まれ生活が豊かになるという自由主義経済の基本である。

経済成熟期に発達する「儲ける」仕組みがマクドナルド型生権力である。たとえば旅客機のサービスによるクラス分け。エコノミークラス/ビジネスクラス/ファーストクラス。さらには外部までも取り込んで成熟社会を全面包囲している。

マクドナルド型生権力の見取り図

  • マクドナルド空間−内部
    • エコノミークラスマクドナルド空間)・・・低価格。安全、安心、安定。グローバルな公共空間。
    • ビジネスクラスマクドナルド空間の多様化)・・・エンターテイメントの付加価値。ショッピングモール、ディズニーランド。
    • ファーストクラスマクドナルド空間の臨界)・・・高価格。高度サービス。医療、介護、弁護士。
  • マクドナルド空間−外部
    • ハウスホールド(家庭生活)・・・核家族から個別化へ
    • アウトキャスト(取り残された外部)・・・失業者、低所得高齢者。
    • コンフューズ(混沌・創発領域)・・・秋葉原、ネット社会。




1 マクドナルド空間−内部


<エコノミークラス>
 マクドナルド空間
・・・低価格、省スペース、安心、公共性

ミクロ権力(規律訓練権力)
清潔、無個性、セルフサービス(自己責任)によって、場に暗黙の規律(儀礼的無関心)を形成し、狭い空間、短い滞在でも安価・安全・寛ぎを提供する。コンビニ、ファミレスなど。現代の「グローバルな経済的公共空間」になっている。(参照:http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20090619#p1
マクロ権力(生政治)
社会の流動性が向上すると、他者との摩擦が起こる。安価・安全・安定した商品を供給することで、社会全体の効率化を目指す。自由主義経済におけるグローバルな安全空間を供給する。利害関心→利益率は低い。チェーン展開により薄利多売。チェーン展開できるだけの需要がある身近な生活品が基本になる。
管理技術
チェーン店を繋ぐネットワーク。商品の一括管理など低コストのために必要な技術。




ビジネスクラス
 マクドナルド空間の多様化
・・・エンターテイメントの付加価値

ミクロ権力(規律訓練権力、テーマパーク型権力)
マクドナルド空間の無個性さを非日常性として演出し、そこにエンターテイメントを加える。安価・安全・安定な遊技空間を作り出す。ショッピングモール、シネマコンプレックスなど。子供がマクドナルドへ行きたがるのは、マクドナルドがただ安価な食事場ではなく小さなエンターテイメントを組み込んでいるから。付加するエンターテイメントは楽しいだけではなく、酒場などでは洗練された演出などのバリエーションが可能である。さらにはディズニーランドもマクドナルド空間」をベースに作られている。
マクロ権力(生政治)
マクドナルド空間の多様性によって、より高次に生活をフォローする。利害関心→マクドナルド空間ほどチェーン店舗数は増やせないが、1店舗当たりの利益率を高める。
管理技術
ナビゲートシステムの発達によっていままだファーストクラスのサービスをいかに低コストに提供できるか。




<ファーストクラス>
 マクドナルド空間の臨界
・・・高価格。マンツーマンサービス、擬似プライベート空間。

ミクロ権力
マクドナルド空間はセルフサービス(自己責任)や暗黙の秩序によって、安価に摩擦がない空間を提供するが、その臨界ではそれでは対処できない高度で密接な部分が残る。たとえば医療、教育、介護、あるいはカウンセリング、弁護士など。マンツーマンなサービス、擬似プライベート空間によって高度な感情労働を提供する。当然、高額となる。
生政治
金銭経済(マクドナルド空間)の臨界であり、「もはやお金で買えないものはない」が目指される。もっとも「人間らしさ」を提供する。金持ちか、数度の旅行などで体験される。利害関心→希少であることが付加価値となる。




2 マクドナルド空間−外部


<ハウスホールド>
 家庭生活
・・・核家族化から個別化へ。マクドナルド空間への取り込まれ

マクロ権力(規律訓練権力)
家庭生活では人々は自らでサービスを行っている。主婦は家族のために労働しサービスを提供する。あるいは地域コミュニティでは隣人同士がサービスを贈与し合う。このような非金銭経済のサービスは金銭経済とともに生活を支えてきた。ときにファーストクラス以上のもの、あるいは金銭に代えられないほどのサービスを提供する。しかし家庭、地域コミュニティ(非金銭サービス)は解体しつつある。
マクロ権力(生政治)
家庭生活は労働を補助する場としてまた消費を生み出す場として経済の基本の一つである。そして家庭、地域コミュニティ(非金銭サービス)は金銭経済(マクドナルド空間)へ取り込まれている。たとえば主婦がする非金銭労働をいかに商品化して提供するか。家庭生活での出費は増えるが、主婦はパートに出でて稼ぐ。さらに現代の生活は核家族からさらに個別化している。一人で生活できるのは安価・安全なマクドナルド空間に支えられているからだ。あるいは地域密着の商店街などの家庭的な雰囲気は、逆に儀礼的無関心を破壊し、なれなれしい、めんどくさいと廃れていく。




アウトキャスト
 取り残された外部
・・・高度なサービスから取り残される。「ホモサケル」

ミクロ権力
マクドナルド空間に依存した貨幣中心の生活では、人々は個別化し助けてくれる「家族」がなく、さらに失業者、低所得高齢者などのお金を持っていない人々が、医療、教育、介護などの高度なサービス(ファーストクラス)を必要とするときに取り残されていく。
マクロ権力(生政治、公共投資
お金を持たない人々は民間投資には魅力がなく、マクドナルド空間から取り残されていく。このために公共投資による補助がもっとも必要とされるが、限界がある。
管理技術(環境管理権力)
補助されなければ生きられない人々という人間としての尊厳の消失。より低コストで補助するために積極的に管理技術が活用される。そこでは生が動物のように処理される。現代の「ホモサケル」ここにおいて管理技術が環境管理権力として作動する。




<コンフューズ>
 混沌する外部
・・・次のイノベーションの土壌

ミクロ権力
マクドナルド型規律訓練権力=公共的な秩序に回収されない人々。その場その場の独自の秩序(規律)をもち、自律的に混沌とした活力場を生み出す。社会的に危険とされる。
管理技術(環境管理権力)
だからといって暴力によって排除するのではなく、防犯カメラなどで監視して見守る。ここでも管理技術は権力として作動する。
マクロ権力(生政治、公共投資
次のイノベーションはこのような混沌とした活力場から生まれてくるために、監視しつつ自由にさせる。有望なイノベーションとして認知されることで民間・公共投資によってマクドナルド空間として整備される。秋葉原もかつては混沌とした活力場であったが話題を呼ぶことで整備されマクドナルド空間へと変容している。利害関心→新たなイノベーションに投資することはリスクがあるがリターンも大きく、投資にとっては最重要な領域である。




追記 


監視社会(環境管理権力)

最近の左派の言説は、ドゥルーズ「コントロール社会」を受けて、ポストフォーディズム分析の先に監視社会(環境管理権力)による透明な権力による全面包囲の危険が語られることがパターン化されつつある。しかしここには左派の古い「国家嫌悪」が見え隠れする。自由主義社会において、監視社会の問題を考える場合には、「儲かるか」(利害関心)との関係による巧妙さを考慮する必要がある。

社会を網羅した監視体制には厖大な設備投資を必要とする。だからそれがどこまで技術的に可能であると以上に、投資に見合うだけのリターンはあるのかが重要になるだろう。当然、民間投資による回収などできないわけで監視社会を構築することができるのは、政府だけになる。自由主義社会において政府においてもそこまで利害関心を無視した投資は難しいだろう。

監視はむしろ「監視してます」という警告をともなった抑止(規律訓練権力)として働くことがほとんどである。その方がずっと投資効率が良いからだ。だから管理技術のみ頼るよりも、生権力(規律訓練権力+生政治)として身体のみではなく精神へも働くように巧妙に働くのだ。


ネット社会

ネット社会は<コンフューズ>な領域である。ネット上の秩序は基本的にアーキテクチャ(環境管理技術)によって支えられている。しかし規律訓練権力との併用が重要である。2ちゃんねる、mixi、ブログなども独自の公共空間を形成している。また定期的に見せしめの逮捕者が出ることで「監視しているぞ」という眼差しが規律訓練権力として働いている。それでもマルチチュード(群衆)を管理するのは限界がある。誹謗中傷などの問題をすべて取り締まってもコストばっかりかかってしまうだろう。


投資

このようなマクドナルド型生権力は、先進国の豊かな生活場という限られた領域でのビジネスモデルである。多くの資本は異なるビジネスモデルへ流れている。一つは経済成長期にある途上国を巻き込んだグローバル化である。途上国の<ハウスホールド(家庭生活)>、<コンフューズ(混沌・創発領域)>はまだまだ未開拓地(フロンティア)であり、これらかの成長が見込める。あるいは金融市場である。金融市場は貨幣が自己増殖する怪しい市場ではあるが、新たな金融商品技術が<コンフューズ(混沌・創発領域)>を生み出している。ただこれらの市場に境界はない。


保守派(右派)と左派

マクドナルド空間の問題は、安価にサービスを提供する意味で便利で安全で快適である。しかし快適である故に人々は依存し、社会が解体する。そして他者回避できない高度なサービスもマクドナルド化により対処しようとしても、希少性を高めて、高騰している。貨幣を持たないものはこぼれ落ちてしまう。自由主義者マクドナル空間を徹底することを望むでしょう。高度サービスもマクドナルド空間とされると。環境管理技術の発展を望む。それに対して、左派は「社会のセーフティネットの解体」を問題にする。貧困の問題とはマクドナルド依存からくる。だから生活力を高めておくこと。そして社会的連係を育てておくこと。




参考: フーコーの権力論の構図


復習のためにフーコーの生権力をしめす。くれぐれも、規律訓練権力と生権力を対立構造で考えないこと。

生権力・・・生に対する権力の組織化が展開する二つの極


1)規律訓練型権力、人間の身体の解剖−政治学(ミクロな権力)・・・規律を特徴づけている権力の手続き。機械としての身体、効果的で経済的な管理システムへの身体の組み込み

2)人口の生−政治学(マクロな権力)・・・調整する管理。種である身体、生物学的プロセスの支えとなる身体、繁殖や誕生、死亡率、健康の水準、寿命、長寿


「性の歴史1 知への意志」 ミッシェル・フーコーISBN:4105067044)P176


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*1:画像元 拾いもの