ドコモがいかにウェブに革命を起こしたか 「古き良きインターネット」の終焉

pikarrr2010-02-14

先の「ウェブでは「フリー」が基本であるというのは本当か」 http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20100213#p1に質問がありました。

愚樵 2010/02/14 06:44


pikarrrさん、はじめまして。
“ウェブでは「フリー」が基本であるというのは本当か”という問いかけは、“ウェブは「フリー」なのか”、“ウェブは「フリー」でよいのか”という2つの問いのうちのどちらになるのでしょうか。私は、ウェブは「フリー」が基本になったからこそ“ウェブは「フリー」でよいのか”という問いかけが生まれてきたように感じるのですが。




ITフェティシズムという転倒


愚樵さん はじめまして。

「ウェブでは「フリー」が基本であるというのは本当か」という問いは、いまウェブではフリーが基本である。しかしこれはほんとうに当然のことなのか。変化する環境の中で当然でなくなるのではないか、ということです。

ウェブは混沌の場です。だから必要な情報を得るために、安全で、簡単で、短時間であることが重要です。特に時間が希少になっている現代人にとってはそうです。そしていままでのウェブサービスはこれらのユーザビリティは十分でない、だけではなく「おかしい」のです。

ウェブサービスはフリーなので、十分にサービスをするほどにコストをかけることができません。だからみなウェブサービスに十分なサービスを期待していませんし、セフルサービスであることが暗黙の了解です。だからサービスの不十分さを自らでいかに解決するかが重要です。

ウェブではここに転倒が起こります。しかたなくサービスの不十分さに対応するのではなく、問題を楽しむようになる。問題処理能力がそのままウェブ上のその人の価値に繋がります。だから自ら不十分さを求めるのです。ITサービスが未完成であるほどワクワクする。だから次々に新たに登場するサービスを熱狂し追いかける。これがITフェティシズムです。




i-modeの革命性


ウェブサービスは変化の速い世界です。だからサービスの安定を重視しすぎると変化についていけません。だからサービスが不十分であることは仕方のないことだ、というのがいままでのITサービスの常識でした。パソコンからWindwsから、ウェブサービスから・・・

それを破ったのがドコモです。ドコモはi-modeによってウェブサービスのレイヤー構造である、コンテンツ/プラットフォーム/インフラ/端末の4層を垂直統合することで、安全で、簡単で、短時間なサービスを提供することにはじめて成功しました。どこかのレイヤーのサービスのみを向上させても他のレイヤーが悪ければ意味がありませんので、高いサービスには垂直統合な管理が不可欠です。

ドコモはもともと電話会社であることから垂直統合しやすい位置にいました。また家電や自動車などでもわかるように、もともと日本企業は高いユーザビリティ技術を得意としています。そもそもウェブに高いサービスを導入するという発想はアメリカ人にはできないでしょう。これによって、ドコモは世界ではじめてコンテンツ課金ビジネスで成功を収めます。いまも日本のケータイほど成功しているものはありません。




なぜi-modeガラパゴス化したのか


しかしガラパゴスと言われるようにドコモの技術は世界には広まりませんでした。理由は色々あるでしょう。まず垂直統合そのものがローカルなものだ。サービスに金を払うことに慣れた豊かな日本市場のみの成功だ。日本以外ではそれぞれ既得のメーカーがあるので各レイヤーを統合するのは難しい。またグローバルなITサービス産業、とくにプラットフォームはアメリカ企業によって独占されています。

また日本でもドコモのやり方にはウェブユーザーからの抵抗があります。特にすでにウェブに住むフェティッシュな人々からは、ウェブの自由な世界が旧来の大企業に囲われた。ほんとうはフリーなサービスを初心者から騙して金を取っているなど。

ITフェチはなぜ嫌金なのか。彼らは実社会では多くの無駄遣いをしているにも関わらず、ウェブ上では豹変する。このスイッチが思想のふりをしたフェティシズムたる所以でしょう。またi-modeのような完成度の高いサービスはITフェチの死活問題です。未完成へのフェティッシュができないからです。

ドコモの功績は、いままでのセルフサービスで、フェティッシュなマニアックなものから誰でも使えるウェブサービスへの道を開いたことです。これほど短期間にケータイを持っていない人がいないほどに日本国民へ浸透させえたのは、ウェブをITフェティシズムから解放したためでしょう。これを契機にもウェブへアクセスする端末としてケータイが当たり前になっています。

このドコモの開発した垂直統合モデルの成功が、いまアメリカ企業によって次のウェブの方向性になっています。まず成功したのはアップルによる音楽配信iTunesです。そしてアマゾンの書籍配信のキンドルなど。彼らの成功の理由に一つは、インフラ、コンテンツにつづいて、端末のコストが下がり、コンテンツ専用端末の多台持ちが当たり前になったことです。




「古き良きインターネット」の終焉


再度言えば、ウェブのフリーには信頼性の問題があり、安全、簡単は金になるのです。それを実現するための垂直統合型のサービスが必要です。これによっていままのウェブはフリーで危険で課金システムが作動しないという常識が崩れます。

これは単にウェブ上でのコンテンツへの課金を可能にする、というだけのことではありません。ウェブは激変する可能性があります。いままでの実社会とウェブの境界が解体するのです。

グーグルなどのウェブのプラットフォーム・レイヤーに独占されていた富が解放され、実社会のコンテンツ産業がウェブ上で収益を上げてより積極的にサービスを展開します。あるいは個人のコンテンツ制作者にも課金収入の道が広がります。

そしてお金が上陸することで、ウェブは大きくかわると思います。いまも著作権やプライバシーなどの問題がありますが、実社会とは違う、ウェブという特別な問題であると棚上げにされていた感があります。そこにお金が絡むと状況は一変して「リアリティ」ある問題となると思います。そして法の整備、とうことは国家による統治が強化されます。

そもそもそのようなものがあったらの話ですが、グローバルな自由と平等の「古き良きインターネット」が終わるのです。とにかくITフェティッシュによって支えられていたウェブのアウラ(神性)の凋落」はさけられないでしょう。これをなにか自由が失われると考えるのは間違いです。ただ実社会とシームレスになり、実社会との間に折り合いをつけて、普通の人々が安全に楽しむことができるようになるということです。




<ウェブでは「フリー」が基本であるというのは本当か>

1.ウェブでは「フリー」が基本であるというのは本当か 「ネット帝国主義と日本の敗北」岸博幸
2.ドコモがいかにウェブに革命を起こしたか 「古き良きインターネット」の終焉
3.[議論]なぜドコモが時代を先取りしえたのか
4. ドコモ化するウェブ

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