なぜ日本だけがデフレなのか デフレへ適応する日本人

pikarrr2011-04-29

なぜ日本だけがデフレなのか


なぜ日本はデフレになったのか。週刊東洋経済増刊デフレ完全解明」ASIN:B004IOZAJ0)を読んでいる。数人の経済学者がその理由および対策法を語っているが、みなそれぞれである。

本書の中のデフレ分析で面白かったのが以下。先進国ではデフレは日本特有でそれも10年以上にわたり長期化しているという不思議な現象だ。ここからも経済分析が難しいことがわかる。マクロ経済学自由主義経済を一つの法則性で説明しようとする。このような地域的な環境の分析になると、とたんに個人の感想レベルになってしまう。

・日本のデフレは1998年以降、過去十数年間続いているといってもよい。
・デフレの中心は家電製品や家賃の下げが中心。生鮮食品をのぞく食料も下落している。
・過去30年間でデフレを経験したのは主要先進国では日本だけ
・デフレは国際的に日本の代名詞のようになっており、「ジャパナイゼーション(日本化)」とも呼ばれている。




中国の安価な労働市場の台頭


いちサラリーマンとしてのボクの実感としては日本製品の価格が下がったのはなんといっても中国が安価な労働市場として登場した衝撃が大きかったと思う。日本で製造する場合と中国で製造する場合でコスト計算するとその違いは明かである。すぐ近くにそのような環境が登場したらそちらへ流れる傾向が生まれることは当然である。特にシェアが低く挽回が狙う企業は選択するだろう。

労働環境にしても、中国労働市場の台頭で、ほとんどの企業が一部生産を中国へ移した。当然日本の雇用は減る。それとともに日本の工場では雇用の流出を食い止めるための努力が行われる。中国工場に負けないコストダウン努力が行われる。その一番は人件費削減となる。いかに生産性を上げて人を減らすか、人の賃金を下げるか。非正規社員を活用するか。これらが大きな流れとして起こった。

最近は日本市場に韓国、中国メーカーが参入して来ている。日本人は日本製品へのこだわりが強くあるが、その「慣習」を崩さないためにも、日本企業は韓国メーカーのコストに追従し、少し高いコストを狙うことになる。そのようにして商品の値段は下がっている。




第三次産業の苛酷な雇用環境


それに続いて日本の労働環境に起こった変化は、第二次産業(製造業)から第三次産業(サービス業)へのシフトするだろう。そして第二次産業(製造業)と第三次産業(サービス業)では雇用形態が大きく異なる。

特に日本の製造業は、護送船団として大企業を頂点として多くの下請け業者が連なり、終身雇用、年功序列として雇用は安定し生活は保障された。このために製造のオートメーション化が進められようが現場労働者は単なる単純作業者ではなく、その場での技能を高め改善を進めて、世界に誇る高品質な製品を製造してきた。

しかしサービス業では求められる雇用形態は大きく変わる。まずサービスとはすでに一つの付加価値製品であり流行が変わる。また製造業のような大きな投資がないことからも、絶えず変化していく。このためにサービス内容はマニュアル化されて熟練労働者は求められない。

また製品の低コスト化にともない、当然その一部であるサービスの低コスト化、人件費の削減を求められる。このために、一年単位でも、1日単位でもなく、時間単位で必要・不必要が調整されているためにバイト、フリーターなどの時間単位の非正規社員が求められる。

このように第二次産業に比べて、第三次産業の雇用形態は賃金が安価で安定化せず、将来の保障もないという厳しいものになる。




第三次産業の所得格差


第三次産業のもう一つの特徴は、サービスが売り上げを決める付加価値製品であり、流行で変化しやすいことから、サービスを創造するクリエーターが重視される。彼らは簡単に代替が聞かないことから、高い賃金が支払われる。またこのような知的財産を維持管理するために、コンサルタント、弁護士などの知的動労者が求められ、彼らにもまた高い賃金が支払われる。このように、第二次産業でも管理者と労働者という格差はあったが、第三次産業ではそれ以上に格差が広がる。

製造業の一部が中国の安い労働力へ流れために、雇用が減っただけではなく、サービス業へ移ったことによって、いままでの高度成長期から継続した製造業の幸福な労働環境が失われた。逆にいえば、もともとすでに維持が困難であったが、なかなか変えられなかった古い雇用形態が中国の台頭によって変えられたともいえる。




中国の台頭による恩恵


中国の台頭は一方で巨大な市場を登場させた。実際には、対中国貿易収支では、日本への輸入が増大すると共に、日本からの輸出が増えて、貿易収支は黒字である。主に日本からは高度な工業製品が輸入され続けている。

今回の東海関東大震災で、日本の工場の製造が滞ることで世界経済へ大きな影響を与えたように、世界に誇る技術大国である。輸出規模の増加は研究投資を増やし、次のイノベーションへとつながり、知的に富んだ日本社会の維持につながっている。

また中国の安価な労働力による安価な商品の流入は日本をデフレ化させて、日本人が安価で豊かな生活を可能にしている。このようなデフレ傾向によって、「コンビニエンスな生活」環境を作り出している。




コンビニエンスなデフレ生活


「コンビニエンスな生活」とは単に便利な生活ではない。そのポイントは「他者回避」にある。他者との協力関係を貨幣商品交換によって代替させることで他者との煩わしい関係を回避し、個人の自由を広げている

コンビニエンスな生活とはこのような他者回避した貨幣商品交換を、金持ちのための高価なサービスではなく、システム化することで生活の広範囲にわたり、安価で誰にでも提供される環境が整備されている状態である。

代表的なものがマクドナルドだ。マクドナルドでは誰に対しても、そして世界中どこでも、マニュアルにそった同じ商品サービスが安価で行われる。いまやコンビニ、ファミレスなど様々な商品サービスがマクドナルド化されて、安価でマニュアル化されて提供される環境が整っている。

このように生活の隅々まで、コンビニエンス化が進むことで、人々は僅かなお金があれば、豊かで自由な生活を送ることができるようになっている。特に日本においてはその充実は世界的にも突出している。




クリエイティブを楽しむデフレ生活


日本の雇用はサービス業へとシフトすることで不安定化し、格差が広がる傾向にある。そして、このような変化は、おのずと生活環境の変化を生み出す。

日本人は高い教育を受けているために、安価で、単純な労働へしながら、一方で趣味でクリエーティブな労働を行っている。オタク文化や、ネット上の文化がいかに知的な無償労働に溢れるか、驚くべきである。

一つのライフスタイとして、安い賃金と自由な時間が多い雇用形態に対して、デフレによる安価で豊かなコンビニエンスな生活に過ごしつつ、ネット上で知的でクリエイティブな無償労働を楽しむ。

確かに、古き良き労働者の価値観からすると、自動車や高級品を消費せず、家庭・子供も養えない可哀想な世代と感じるかもしれないが、手に入れたくても手に入らないのか疑問である。若者の幸福が消費や社会生活など外向的から、クリエイティブな趣味の世界という内向的へむかっているといえる。それは雇用形態の変化とも対応している。

たとえば現代の成功者はかつてのような社会を巧みに生きぬきトップに立つ者ではなく、独創的なクリエーターである。若者の内向的な趣味行為は無意識に現代の成功者を模擬しているといえる。ライフスタイル、価値観そのもののシフトが起こっていることも確かだ。




個人資産1,000兆円を巡る世代間の協力関係


良いにしろ、悪いにしろ、このような変化が一つの適応だとすれば、いま一番の問題は、将来への不安だろう。家族をつくらず、その日を楽しくすごく生活は無縁社会への不安を生んでいる。

やはり将来への不安と言えば、日本の慢性的な財政赤字だろう。雇用の不安定化によって失業保険料の増加、あるいは少子化から高齢化社会を向かえ、年金など社会保障増加の中で、慢性的な財政赤字にオチっている。将来、貯蓄もなく、年金をどれぐらいもらえるか。

このような雇用形態の変化と共に起こっているが、親への財政依存である。古き良き雇用形態を継続し安定した収入をえて多くの貯蓄を貯め込んでいる親の世代と不安的な雇用の時代を生きる子の世代に、世代間格差が生まれている。このために子の世代は親の世代に経済的に依存している傾向がある。

このような傾向も一つの適応として考えれば、必ずしも悪くないのかもしれない。日本には1,000兆円の個人資産が眠っていると言われる。これらを持っているのは多くが親の世代である。経済政策ではこの資産をいかに消費に回して、内需拡大、景気回復するか、議論されるが、親の世代の貯蓄は単に自らの老後のためだけではなく子供のためといえる。

世代間格差も一つの環境であり、今後、1,000兆円の個人資産をめぐって、子の世代は親へ依存しつつ、ともに無縁社会と財政難も乗り越えていく。




デフレを乗り越えた先になにがある?


デフレを乗り越えた先になにをのぞむのか。いまを早く乗り越えなければならない「マクロ経済的」なデフレ不況と捉えるより、構造的な環境変化であって、適応する力を信じて放任することも重要である。

特にデフレ対策案でもっとも多い「内需増加」策には、日本人は古き良き「三丁目の夕日」にしがみつきすぎているように感じてしまう。金をいくら投入してもいっこうに盛り上がらない消費マインド。元に多くの内需刺激策は成功していない。政府は、内需を増やすためのバラマキ政策や、高校無償化など過剰な社会保障も控えて、財政赤字を増やして、将来へ負担をかけないようにする必要がある。




まとめ

・中国の安価な労働市場の台頭
 →日本の雇用の第二次産業から第三次産業へのシフト
 →日本の雇用の不安定化
 →格差増加(クリエーターとフリーターの格差、親世代と子世代の格差)
 →子世代の親世代への依存→親子世代の協力関係へ?


・中国からの安価な商品の参入
 →日本のデフレ化
 →雇用形態とデフレに適応した新ライフスタイル(コンビニエンスな生活+クリエーティブな趣味)
 →クリエーターとして成功の夢をみる


・中国市場の増加
 →日本の輸入増大+貿易黒字
 →技術立国日本の優位継続

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