なぜ引きこもりはプライドが高いのか。

pikarrr2005-10-18

引きこもりのプライド


昨日、またテレビで引きこもりを立ち直らせる、というようなテレビドキュメントをやっていた。これらを見ていると、引きこもりは近い傾向があるように思う。それは、「自分の価値」とでもいうようなものを強く求める傾向がある、ということだ。それは、社会にでること、労働することのつらさから逃げるための口実だとは、割り切れない彼らなりの「プライド」があるよう思う。




神が死んだ後の永久回帰


ニーチェ「神は死んだ」と言った。神とはなにか。大いなる意志である。キミの特別性、なんのために生きているのか、生きる意味を保証してくれる存在だ。どんなにたくさんの人がいても、神は全能であるから、一人一人に価値を見いだし、見守ってくれている。神がいるかぎり、キミは特別であり、生きる意味があった。

しかし「神が死んだ」ときに、キミの特別性は消失した。あとに残ってのは、偶然が支配する機械論的、統計的世界である。たとえば、キミが回りの人の中で、身長が高いとする。それが一つの特徴だとする。統計の世界では、ある確率で必ず、身長が高い人が存在する。それはキミでなければ、誰かであっただけだ。キミは苦しみ自殺したとする。統計の世界では、ある確率で自殺者がでる。だからそれさえのキミの特別性を保証はしない。

現代の科学は、この偶然の世界を空間的に時間的に、すなわち進化論、宇宙論的に延長した。だからニーチェ「神が死んだ」あとに「永久回帰」といっったのだ。完全なる偶然の世界、どのような空間的、時間的にも特別性が見いだせない世界。キミはもはや、どこにも逃げ場はない。偶然であり、キミである必要はない強度の中で、生き続けることが強いられる。




エディプスの三角形


しかし苦しみはそれだけではない。フロイトそしてラカンはエディプスの三角形を見いだす。キミは生まれたとき、全能感をもって生まれる、この世界はすべてキミのためにあるという錯覚の中で生まれてくる。現代はそれをさらに物質的な豊かさが支え、キミには無限の可能性がある、夢を持て、と教えられる。

しかし少しずつ、ニーチェ的な「永久回帰」の世界へ投げ出されて、ギャップが口を広げていく。多くの引きこもりは、学校のいじめをきっかけに引きこもりと言われるが、そのような特別なきっかけがなくとも、社会に入っていく中で、自分が特別でないこと、偶然の存在であることに気づいていくのである。




脱自分しないための脱社会化


「大人になる」ということは、偶然性の世界を受け入れ、自分が特別でないことを受け入れていくことである。これは、つらいことである。だから多く人はこの強度に耐えるために、誰かを愛するのである。恋人、子供のために、働き、生きていかなければならない。恋人、子供にとっては、ボクは特別なのだ、ということだ。しかし最近では、家族のためというお父さんを疎ましく思うだろう。実際、それは自分の特別性を保証するためのものだからである。

若者は野心的である。世界は偶然性と簡単に割り切れない。自分が特別であるという「可能性」を信じて、愛する人のためでなく、自分のために、懸命に偶然の世界へと乗り出していくだろう。そして引きこもりも、外見上社会からは脱落しても、その野心は他の人とかわらない。彼らは単に無気力なのではなく、「特別でありたいが、どのように特別であるのか、どのように頑張ればよいかわからない」のである。彼らは、脱社会してでも脱自分化したくないのだ。さらに、「引きこもりのプライドが高い」のは、正確には「引きこもりのくせにプライドが高い」という意味を含むだろう。そしてまたこのような社会的なバッシングへの反発として、引きこもりのプライドはさらに高くなる。




引きこもり化する社会


このような背景は、引きこもりに特別ではないだろう。ほとんどの人が「引きこもり傾向」を持つのではないだろうか。「引きこもり傾向」とは、「プライドが高いが、それを他者へとコミュニケーションできずに、孤独になる」というようなことだ。そして人々をネット上のゆるい繋がり=繋がりの社会性*1へ向かわせていると言えるだろう。
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*1:「ともかくコミュニケーションが連続することが重視されるとき、これを北田は「繋がりの社会性」と呼ぶ。そこでコミュニケーションのフックになるのは、コミュニケーションの意味内容やメッセージではなく、感情的な盛り上がりや、形式的な作法といったコンテクストである。」 http://ised.glocom.jp/keyword/%E7%B9%8B%E3%81%8C%E3%82%8A%E3%81%AE%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E6%80%A7

*2:画像元 http://www.ikuryo.ed.jp/school_nurse/contents03.htm