溢れる余剰 その7 2ちゃんねるの二重構造

単一記号コミュニティ「2ちゃんねる


ネットワーク上には大きく分けてデーターベース場とコミュニケーション場がある。データベース場は情報を収集するために訪れる場所であり、ニュースサイトや興味を同じくするパーソナルなHPなどである。そしてコミュニケーション場は他者とコミュニケーションする場で、2ちゃんねるなどの掲示板である。データーベースとコミュニケーションは必ずしも異なるものではなく、一つの場に共存している機能である。たとえばデーターベース場として回覧するところは、自分が帰属する記号コミュニティに関係するものであり、より有効な情報が集められる場としていくつかに絞り込まれる。そしてコミュニケーション場としては、自分と同じ記号コミュニティに帰属するものたちとのコミュニケーション場である。これらの場の選択は帰属する記号の選択を意味し、それは自己価値化行為である。

2ちゃんねるはコミュニケーション場としての要素が大きい。ネットコミュニケーションがもつディスコミュニケーション性を乗り越え、フレーミングをゲーム化することにより、より活発なコミュニケーションを可能にしたのである。そして活発なコミュニケーションは、人々の中で隠されていた欲望を暴露すること方向に向かっている。それをマスメディアが「大衆」と差異化したときに、「2ちゃんねる」という記号コミュニティが形成された。

2ちゃんねる」へアクセスし、2ちゃんねるスタイルのコミュニケーションをすることが価値化しているのである。そしてそれは大衆の一面として理解されてきているのではないだろうか。なんらかの事件があれば、マスメディサイドの人間も2ちゃんねるの発言を見にくることが一般化しているだろう。「2ちゃんねるでは…」とは大衆の本音の一面であると認識して記事は書かれているだろう。



多様記号コミュニティ2ちゃんねる

しかし2ちゃんねるをこのような面だけでで捉えるのは明らかに間違いである。現代社会の大量な情報、価値の中で、人々の帰属は社会的コミュニティから虚像的な記号コミュニティへ移行してきた。そして記号コミュニティがネット上へ移ることにより、現前化しなかった記号コミュニティの「メンバー」と直接コミュニケーションすることが可能になった。同じ記号コミュニティへ帰属する他者との直接的なコミュニケーションは、記号コミュニティへのさらに強い帰属意識を生み出す。さらに自分と近い価値をもつ他者とコミュニケーションするということは、「より近い他者」と差異化するために異なる価値をもとめて、コミュニティ内部のより細部へ向かうという差異化運動を加速させる。

2ちゃんねるはカテゴリ、スレッドという階層的構造を持ち、多くの多様な記号コミュニティを内包した総合掲示板である。多くのネットユーザーはインターネットの自由度に対して、頻繁におとれずれる場は思った以上に狭い。それはデーターベース場よりもコミュニケーション場においてより顕著である。だから2ちゃんねる住人が2ちゃんねる内のどの板のどれスレッドを選定し、頻繁にコミュニケーションするかは、たまたまそこで発言しているわけではなく、記号コミュニティを選択し、その記号コミュニティへ帰属意識をもち参加しているのである。

2ちゃんねるの集客力はより細分化した多様な記号コミュニティを発生させ、より活発なコミュニケーション場を可能にしている。そして記号コミュニティ内の差異化運動によって、自己価値を見いだそうとしているのである。このような場合に発言は、ネタ的、煽り的という2ちゃんねるスタイルではなく、記号についての情報交換を行うデーターベース場として作動し、発言も「マジレス」として進められることが多い。



2ちゃんねるの二重構造

多くの2ちゃねらーは、「2ちゃんねる」という単一記号コミュニティと、多様な記号コミュニティ群の選定という二重の構造をもって参加している。たとえばニューズ板、TV系の板、タレント系の板などの大衆全般的な分野へは誰でも比較的安易に参加することができる。そのような場では、2ちゃんねるスタイルが表出しやすい。それはさらに「祭り」で顕著である。社会的に大きな事件がおこると2ちゃんねる内の事件に関係するスレッドに2ちゃねらーが集中して集まる。そして「祭り」は、参加し発言することが目的化されるという2ちゃんねるスタイルがもっとも顕著に現れる。そのような「祭り」によって、事件に対する不安を共有し、2ちゃねらーは「2ちゃんねる」コミュニティへの帰属意識を確認しているのである。

専門的な分野では、専門分野のカテゴリーへの帰属意識が高い傾向があり、「マジレス」が繰り替えられやすい。ただこれもこれはあくまで傾向であり、2ちゃねらーはこのような二面性をもって、2ちゃんねるに参加しているのである。だからたとえばある板において、あるスレッドではマジレスを行い、その隣のスレッドではフレーミングゲームを楽しむなどはよくあることだろう。