なぜ日本人はみんなと同期するのが大好きなのか

pikarrr2010-07-10

日本人の「同期への欲求」の強さ


有名な話だが日本のCDの発売日はほぼ水曜日だ。なぜならオリコンの週間集計が火曜から次の月曜になっているからだ。CDは発売日前日火曜から店頭に並ぶので、水曜日を発売日とすることで、週間集計数が最も高くなり、チャートがより上位になる。

この作戦が成功している理由には経験的な前提があるだろう。まず日本では特に発売1週目にCDがよく売れるという現象だ。1週目で決まってしまうといってもよい。そして1週目を高くすることで宣伝となり2週目も高くなる。たとえばアメリカでも人気アーティストの話題作が1週目から高いチャートになることはあるが、基本的には発売後にラジオなどで流れ、人々に認知されることで売れる。

ここから分かるのは日本人の「あたらしもの好き」、ということだけではなく「同期すること」への欲求の強さだろう。発売日とは誰にとっても発売日であり、そこにカウントダウンが生まれる。この時間的な同期によって「みんながほしいものが手に入る」ということがもっとも実感できるようになるわけだ。このような流行ものによる「同期への欲求」はどの国でもあるだろうが、CDの購買の例からわかるように日本人ほどどん欲な人々はいないだろう。




ガラパゴス化とは「同期への欲求」の形跡


このような日本人の「同期への欲求」の例として、他に上げられるのが家電製品のモデルチェンジである。日本ほど頻繁に家電製品のモデルチェンジが行われる国はないだろう。頻繁にモデルチェンジが行われる理由の一つは日本人の同期への強い欲求である。モデルチェンジのたびに時間がリセットされ再スタートされることで、同期が生み出され再度購買欲がかきたてる、という日本人用のマーケティング戦略である。

欧米では冷蔵庫はたくさんはいる、冷えるというシンプルなものが売れる。それに対して、日本で販売される冷蔵庫はモデルチェンジが年輪のように積み重なった多機能な製品である。だからそれを海外で販売しても受け入れられない。

このよう日本の独自の閉じた進化の促進は「ガラパゴス化」と言われる。すなわち日本のガラパゴス製品とは、日本人の「同期への欲求」を満たすための血と汗の努力によって進化促進した形跡である。

同期への欲求の例として消費を例に挙げたが、生産においても同期への欲求は強く働いている。たとえば日本人の技術開発は独創的なものよりも改善的なものが得意と言われる。日本の技術開発を先導しているのは大手企業群である。彼らは同期への欲求の強い日本人消費者をターゲットにしつつ、他社を横目に開発競争を展開している。だからモデルチェンジ製品はどこも似たような製品が同じタイミングで投入される。このような運動が日本という閉じた領域でのガラパゴス化を生み出している。

このような日本人の「同期への欲求」こそが日本人の勤勉さであり、世界的に有数な高度に産業国家を生み出した原動力である。

またガラパゴス化は、冷蔵庫なら冷やすという目的超えて手段そのものが目的化する。それが独自の規律化していく傾向はスノビズムな傾向ともいえるだろう。その意味でとても日本人的であり、現代日本人の行動原理のすべてに及んでいると言っていいだろう。




同期できるハイコンテクストな環境があるから同期してしまう


なぜこれほど日本人の「同期への欲求」は強いのか。同期できるハイコンテクストな環境があるから同期してしまう、ということだろう。

日本人がなぜスノビズムへ向かうのかは、ハイコンテクストな社会にあるだろう。同期しやすい彼らは誰かが何かをはじめると、隣の誰かもはじめる。するとそとに競争が生まれる。他者よりも少しでも先へと「差異化の運動」が生まれる。やがて広がり反復されることで様式化され、文化へと成熟していく。

この日本人の同期しやすさを以前「ハイウェイ」に例えた。多文化でローコンテクストな社会では、まず同期してもらうのに苦労する。しかし日本では同期は一つの基礎地盤であり比較的少ない労力で行われる。むしろ同期が基礎であるためにそれだけでは物足りない。ハイウェイでは誰もがどこに向かうのではなく、ちんたら走るのが退屈でとばして競争してみたくなるものだろう。そして走るという手段が目的になる。

さらに日本の「ハイウェイ」は近代化、特に資本主義経済においてよく機能した。日本人の差異化運動は西洋近代化の知識の吸収にどん欲に働き、瞬く間に日本を西洋に並び立つ近代国家へと成長させる原動力となった。現代では、ハイウェイは経済的な効率化、合理化によって強化され、日本は技術、情報、消費の発達において人類史にかつてないほど「超ハイウェイ社会」を実現している。


「なぜ日本人にはスノビズムマクドナルド化が混在するのか」  http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20100708#p1


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