なぜ2ちゃんねるのサービスはアイロニカルなのか 現代の「サービス問題」

pikarrr2011-05-26

日本経済不振のイメージ


アメリカのIT産業、および金融産業の成功、韓国の情報機器世界高シェア獲得、中国の低コスト品の拡販など、各国の産業が特色を出して躍進しているのに対して、日本が以前の自動車、家電産業から次へ展開できないことが、実際の日本経済を表す数字以上に、日本産業が不振であるというイメージになっている。

このような問題には、日本人のサービスと海外のサービスの考え方の違いなど、「サービス」がキーワードになっているように思う。そのことを以下のエントリーで示してきた。

なぜ日本の産業構造は製造業からサービス産業へ転換できなのか オタクの充足 http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20110511#p1


なぜ日本のサービス業の生産性は低いのか 「日本人的なもの」の抵抗 http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20110514#p1




2ちゃんねるのサービス


日本でネットを楽しむ人たちの中に、2ちゃんねる嫌いは結構いる。粗暴で幼稚な2ちゃねらーに不快な思いをした経験がある人も多いだろう。そんな2ちゃんねるにも、一応「サービス」はある。

2ちゃんねる的サービスには大きく二つの特徴がある。1つはアイロニー。2ちゃねらーがアイロニカルなだけではなく、2ちゃんねるを運営する方がアイロニカルだ。

たとえば最近、「ERROR:修行が足りません。しばらくたってから投稿してください。」というエラーがでて、突然書き込めなくなった。なんのことかわからない。調べると新たな荒らし対策のシステムらしい。いまでは少し安定したが導入当初は多くのしばらく書き込めない人が続出した。万事がこの調子である。十分な説明なく、次々変更や規制や行われる。そして「修行が足りません」とか意味不明な人を小馬鹿にした表現である。*1




セルフサービスに価値がおかれる


このような対応のベースにはもう一つの特徴である「セルフサービス」の重視がある。セルフサービスは、2ちゃんねるに限らずネット、さらにIT文化の基本的特徴である。プログラムソフトを基本とするIT産業では、中味が複雑になり、また未完成のまま次々改善されるために、日本の家電製品のような完成度の高いサービスを提供することは困難だ。

バグがあるのは当たり前だし、メーカーに問い合わせも返信がくるかも怪しい。だから基本的な解決方法は自己解決か、そのサービスをやめるかだ。だからといってユーザーが非難しないのは、逆に自律的な問題解決能力が高い人を尊敬するまでに、セフルサービスが文化的な価値をもっているからだ。

だからネット上に下手に質問しようものなら「ググれカス」と馬鹿扱いされる。このようなIT文化のサービス感覚は、日本人が一般生活で企業などに期待する高いユーザービリティーと大きな差がある。




なぜ2ちゃんねるはアイロニカルなのか


2ちゃんねるアイロニーもここに関係しているのかもしれない。2ちゃねらーは、アメリカから輸入されたITのセルフサービスを重視する文化(ハッカー文化)の流れを汲んでいる。

しかしまた2ちゃねらーも日本人ある。次々新参者が日本人的なサービスが当たりとして参加して来る中で軋轢がうまれる。「名無しひよこさん」を馬鹿にしながらも、情報弱者を排除することへの後ろめたさがある。それを皮肉めいたユーモア(アイロニー)で回避することで、場を和らげてきたのではないだろうか。

仮に2ちゃねらーではアイロニーで乗り越えられたとしても、日本のIT産業人にとって、このようなセルフサービスに関するユーザーとの軋轢は、もっと深刻ではないだろうか。日本人が期待するサービスに対応していては、セフルサービスによる生産性が向上しなし、また新たなサービスを次々生み出す障壁になる。これは、アメリカのIT産業の躍進に対して、日本でIT産業が発展しない理由の一つだろう。




格差とサービスのランク


このような傾向は、格差に関する考え方の違いが基本にあるように思う。通常は格差があり、それがサービスの差としても表れる。下層は低いサービスで疎外されるか、セルフサービス能力を高めることが求められる。先進国ならば飛行機のファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスのように、サービスの差は価格の差として反映されるだろう。

これが国際感覚であるとすれば、日本人の感覚とはズレがある。日本のように運命共同体的な国民は世界でも珍しいだろう。日本人のサービス感覚は、でできるだけみな分け隔てなくサービスを提供する。またサービスと価格を直接対比させることに抵抗があり、サービスはお金に還元できない「気持ち」の問題が残る、という感覚をもつ。

たとえばボクもそうだが、日本人が海外にいったときにチップを払うことにどこか後ろめたさがあり、また細かいサービスをすることに恐縮してしまう。その程度のことは自分でやりますからと、思ってしまう。

逆にいえば、日本人は一定のサービスが「フリー(ただ)」だと考えて、一般的な生活の感覚として一定のサービスを受けることは当たり前のことだと考えてしまう。しかし海外では、サービスはコストがかかる価値があるもので、一般的な生活の感覚として、サービスの悪さを受け入れる姿勢がある。それはまた社会の格差を受け入れる姿勢でもある。

アメリカ生まれであるIT文化にはこのような格差を受け入れる文化が根底にあり、日本人のいままでの感覚となじまない部分がある。再度言えば、2ちゃんねるアイロニーはその妥協として生まれた。




「ユーザーにやさしい」文化の根強さ


最近いわれるガラパゴス化のベースにこのような基本的なサービスの考え方の違いがあるだろう。日本製品はできるだけ「ユーザーにやさしい」ことを目指して製品開発が行われる。それが付加価値となり、実際に高級品として売れる。そして各社の付加価値開発競争が行われて、やや機能過多な日本独自に「進化」したガラパゴスな製品が生まれてくる。

ガラパゴスをそのまま海外に輸入しても、理解されない。海外ではサービスはコストがかかるという感覚があるので、冷蔵庫なら冷えるというような基本特性を重視したシンプルな低価格の製品が好まれる。

最近はスマートフォンが普及しているように、日本メーカーの機能過多なガラパゴス製品が非難されることがある。しかしそれをもって、日本ユーザーのサービスへの感覚が変化しだしたといえるだろうか。

2ちゃんねらーだろうが、アイフォニアンだろうが、日常生活のレベルでは、当然のように日本の「ユーザーにやさしい」レベルを享受して、快適な生活を送っている。いやむしろ彼らのようなネットリバタリアンの方が依存している可能性が高い。




日本人が世界に誇るものはなんだろう


昨日、深夜バラエティで「世界のタンポン選手権」をやっていた。世界各国のタンポンを一定時間ビーカーにつけて、その吸収量を競う。その結果、日本製品が一番よく吸収し、漏れが少なく優秀だった。またナプキンも紹介されていたが、漏れ対策や肌触りなど、日本製は基本機能だけではない他国にはない「ユーザーにやさしい」付加機能が追求されている。まさにここに日本の技術力の本質があると思う。

そしてこれは単に日本製品の優秀さだけではなく、「ユーザーにやさしい」が広く働くことで、日本の生活環境全般のレベルの高さに繋がっている。

日本人が世界に誇るものはなんだろうと考えると、ボクは、生活環境だと思う。安全で清潔で、秩序だって、時間どおりに物事が運ぶ高度な社会環境。海外にいったり、テレビでみたりすると、日本ほど安全で、清潔で秩序だった国はそうないだろうこのような進化はまさにガラパゴス化の賜である。




現代の「サービス問題」


2ちゃんねるアイロニーにより対処した現代の「サービス問題」、すなわち強者に解放され、弱者にやさしいサービスはいかに可能か、に対応して、新たな産業を生み出し、さらに豊かになる。

ボクは前々から疑問なんだけど、パソコンっていつになれば、快適に動くんだろう。特にOSの立ち上げ時の遅さはなんとかならないのだろうか。スイッチを入れてサクッと動くようにならないのだろうか。そして思うのが、もし日本人のガラパゴス力でパソコンを真剣に開発すれば、家電製品のようにもっとサクッと動くものが作れるのではないだろうか、と。

でももうそれはある意味で解決済みなのかもしれない。それが日本のガラケーだ。パソコン時代に日本人が開発した「i−mode」携帯電話。立ち上げてサクッと動いて、持ち運びが簡単で、ネット、ゲーム、動画も楽しめる。アイフォンはパソコンよりガラケーの後継なんだろう。そして日本人は「サービス問題」を乗り越えて次のガラパゴスへいくんだろう。
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