なぜもはや「動物化」だけでは生きられないのか 2  「動物化」をめぐって その3

pikarrr2007-07-13

予測可能性向上の閉塞


たとえば近代以前は、<環境>の影響が巨大だった。自然災害の猛威であるとともに、天の恵みのように豊かさも<環境>という巨大な力として作用されていた。このような時代では、とても一人では生きてはいけないので、集団性という助けあいが重要になる。それは、国家としてできあがっていなくても、ネーションとしての人間化=信頼の力学(愛着と排他の力学)が重要になる。うかつに資本=自由に走れば、個人は環境に殺されてしまう。

しかし近代以降の工学化による技術革新は、<環境>の猛威への強力な対抗策となった。このために集団性という助けあいが重要でなくなる。むしろ資本を活性化する個人の自由が重視される。そして集団性につながるネーション、国家が軽視される。

工学化とはなにかといえば、予測可能性を高めることだ。<環境>世界はなにが起こるかわからない予測不可能で不確実な世界である。工学化は、それを分析、定式化することで、予測可能なものに変えた。宇宙の運動、気象、建築強度、人間工学などなど。そのための今ボクたちは、とても予測可能性の高い世界、突然、予測可能なことが起こりにく、安心した社会に住んでいる。

しかしこのような予測可能な世界で人は、不安になる。予定調和の人生では「どうせ死ぬのになんで生きるの?」というギャクがマジに浮上してしまう。だから疑似的な予測不可能性を楽しむ。ジェットコースターは予測された安全な遊具であるが、危険があるように演出することで、予測可能性の閉塞を誤魔化す。

たとえばオタクも、安心な場所において、倒錯的な非モラルを楽しむ。2ちゃんも匿名な場所から、非社会的な発言を楽しむ。これら、予測可能性の反動として、安心にいながら、スリルを味わう。これが、動物化への反動としての人間化である。




<環境>の回帰


しかし911が示したことは、予測可能性というポスモダ的一部の人々に閉じた虚像を解体することだ。だから天災のように不確実性として到来してきた。予測可能性の象徴、ボクたちの安心の象徴は、みごとに不確実性に破壊された。

だから911は、ある意味で<環境>の回帰と言える。テロリストを<環境>という外部へ位置づけることが、一部の先進国のおごった考えであるが、そのおごった考えへの一撃として、911がある。<環境>の戦いは終わってない。世界はいまも戦っていることをしれ、と。911以降、内部は先進国で閉じることができずに、世界は広がり、人間化は回帰した。再び、以下の構図が現れた。資本−ネーション−国家−<環境>

ボクが<環境>と呼ぶのは、この世界の不確実性である。次の瞬間になにが起こるかわからないということ。もはやこのよなことは克服したように考えていますが、それが、のほほんと小さな内部に困った一部の人の勘違いでしかなかった。

環境問題も同じである。環境問題が意図するものはなにかといえば、<環境>は回帰してくる、ということだ。工学化によって乗りこえたつもりだったが、結局、環境問題として回帰してきた。<環境>を乗りこえたというのは、先進国の一部の人々の幻想でしかなかった。工学化という予測可能性の進めた先に現れた、予測不可能性である。予測可能性が独りよがりな小さな世界であることが明らかにされた。




もはや「動物化」だけでは生きられない


<環境>の回帰は、ポストモダンな幸福な時代の終わりとしての21世紀のキーワードになっている。それは、イスラム圏の問題、環境問題さらに、環境資源の問題として現れている。BRICsの発展と共に、資源の国際的な確保が問題になっている。これも<環境>の回帰の一つと言える。中国が国家戦略として、世界の資源確保に走っているように、これは一企業では太刀打ちできないものになっている。

日本における下流の問題のひとつに中国の発展がある。安い賃金をもとに製造する中国に対抗するためには、低コスト化を進める日本では、正社員を減らし、バイトなどに走る。日本の景気が良くなっても、労働者の賃金が上がらないのは、潜在的な中国を含めたグローバル化への危機感が根強いためである。

このような流れが示す、経済(資本)中心のフラット化は、先進国の市場主義を世界に広めるだけではなく、幸せな内部へ外部が流入してくるということでもある。日本の下流には、先進国/後進国という格差が、フラット化として、先進国内に流入しつつある現象としてもとらえられる。フラット化は、先進国というポストモダンを享受する小さな内部の境界を解体し、外部からの不確実性が流入してきている。そしてもはや「動物化」だけでは生きられないだろう。

そして資本−ネーション−国家−<環境>の構図から、はじめて資本−ネーション−国家のバランスの重要性が見えてくる。

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