なぜ「自由」と貧困はトレードオフなのか

pikarrr2008-06-25


「消極的な自由(他者回避)」と貧困のトレードオフ


動物化、すなわち他者回避はなぜ起こるか。なぜ人はマクドナルドへ行くのか、と言っても良いだろう。流動性の高い社会では、なじみのお店がない。毎回毎回が新規であり、毎回「みず知らずの人(他者)」と出会うことの大変さがある。すなわち「みず知らずの人(他者)」の範囲が増加している。

しかしかつては村社会でみなの助け合いがあった、というのは本当だろうか。貧しい時代の方が競争が激しく信頼は低かったのではないか。いまの日本ほど安全で信頼性が高い国はないのではないか。多くの人は最低限のマナーを守り、社会は高度に秩序を保っている。

むしろこのような豊かさの中で人々は甘やかされて自我が肥大し、わがままになる。そして他者との関係をわずらわしく思う。現代は寛容の社会である。寛容とは最低限の公共性を守るので、お互いに必要以上に干渉しないようにしようということだ。これを「消極的な自由」という。

このような「消極的な自由」は他者との関係を貨幣交換に還元する自由競争化を奨励する。小泉政権時の構造改革をなどのネオリベラル化を支持したのは、豊かな者だけではない。ネット上などむしろ貧しい者が支持をした。彼らの多くはネオリベラルの流れに不干渉な社会という「消極的な自由(他者回避)」を望んだ。

ネオリベと消極的自由は関係する。ネオリベラルな自由競争は勝つものはより勝ちやすく、負けるものはより負けやすいという格差を生む。実際に規制緩和が進む中で格差社会は進み、自由と引き替えに貧困が待ちうけていた。ここに「消極的な自由(他者回避)」と負け組のトレードオフが生まれる。たとえばフリーターは干渉されず自由であるが、いつまでも豊かにはなれない、ということ。




貨幣交換という「政治ゲーム」


貨幣交換とは等価交換である。だから貨幣の前ではみな平等である。子供がもつ100円と大臣がもつ100円の価値はかわらないし、その100円と交換できる商品もかわらない。だからいまは格差があろうとも資本主義は自由で平等な競争によって、下流から上流への入れ替えのチャンスがある。

しかし実際に等価交換としての貨幣秩序を維持することはむずかしい。貨幣交換の原初的な場面では力関係が働かざる終えない。同じ100円をもつ子供と大臣でも交換に差が生まれることが往々にして起こる。大臣に優遇すれば先にメリットが帰ってくるかもしれない。純粋な等価交換は存在しない。貨幣交換はコンテクストと切り離せない非対称な関係の上になりたつ「政治ゲーム」である。そして強者/弱者の間ではいまも普通に非対称な交換が行われる。




「資本−国家−ネイション」


特に交換において力関係が重要であるのが、グローバルな資本主義世界である。このような「例外状態」を優位に進めるために国家が存在する。グローバルな競争の場では国家との協力関係は切り離せない。極端にいえば、力があれば、秩序をもうけて交換するよりも、略奪する方が早い。帝国主義とはそのような体制であり、いまの先進国と途上国は力関係の上に成り立っている。

さらに国家といってもただのシステムであり、その力の源泉はネイションである。ネイションはグローバルな競争の場を勝つための国力として集約された。国が豊かになることでネイションは高揚する。すなわち「資本−国家−ネイション」は近代化というグローバル資本主義化の中で生まれた。グローバリズムナショナリズムは同時に生まれたのだ。

ネオリベは強国アメリカのナショナリズムである。国が強ければ、国は資本の動きを静観していればいい。あたかも国家は小さく、ナショナリズムは弱まっているように見える。逆に弱国はこのような強国による経済侵略に対して、国内資本を守らなければならない。




資本主義の編隊


日本は、ポストモダンな自我の肥大とともに他者回避が進み、「消極的な自由(他者回避)」と負け組のトレードオフにある。労働への意欲は低下し、国力も低下している。このような現状において、「経済ナショナリズムによる労働への動機づけ(モチベーション)をあげることは可能だろうか。

「資本−国家−ネイション」という密接な関係のなかで、ネイションだけを向上させる、大衆のモチベーションションを上げることは難しい。むしろ国が弱っているとき強い指導者が望まれる。経済ナショナリズムよりも、国家主義が先行しやすい。どちらにしても、国家への協力を求められることで「消極的な自由(他者回避)」は制約されざるおえないだろう。

自由主義は、強い国力を隠し持ちつつ、資本を先鋭化する強者の資本主義の編隊であり、保護主義は、弱った国力をカバーするために国家を全面化する防御する資本主義的な編隊といえる。そして国力とはネイションによって支えられる。
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