経済成長はコンベンション(慣習)の代謝による

pikarrr2009-05-13

「企業家」が開墾し「投資家」が選択する


経済成長を促すのは、イノベーションへのインセンティブである。この言葉が意味するのは、ケインズのいう流動性選考(過剰貯蓄すること)の裏面、不確実性選考(過剰投資すること)である。

リスクを考えると技術イノベーションや未開開拓=グローバル化なんて危険なことをやることに必ずしも合理性はない。そこに働くのは危険をおかしてももっと成功したい・儲けたいという「パイオニア的博打精神」である。これがないと限界効用逓減によって経済は閉塞し、継続した経済成長はむずかしくなる。

ここでいうイノベーションでは二つの面を考える必要がある。一つが技術開発などのイノベーションを試みる「企業家」の面であり、もう一つが不確実でも企業家に魅力を見出して投資する「投資家」の面である。

企業家は必ずしも金銭的な価値に限らず、創造的な欲望をもち、あれだこれだと開発を試みている。そして投資家はたえず魅力的な投資先を探している。当然、ローリスクハイリターンが望まれるが、そううまい話はなく、ある程度のリスクを負うほどリターンを得られないことも知っている。そもそも投資家の資本は生活とは切り離され貯蓄された金銭である。マルクスもいうようにこの資本こそが資本主義の本質的な動力である。

すなわち企業家たちは「未開地(フロンティア)」を最初に開墾し、投資家はその中から魅力な投資先へ選び出す。そしていくつかが成功することで、経済は成長する。




イノベーションは新たなコンベンション(慣習)ある


ここでいう企業家をシュンペーターが考えるような特別な存在と考えることはできない。イノベーションは単発の企業家の技術開発によって行われるのではなく、従来からの設備、人材という環境のもと、企業家気質の人々のくり返される活動があり、徐々に投資が増えてくることでおこる。イノベーションとはある未開地周辺へ投資が活発化する新たなコンベンション(慣習)を意味する。

これはまた、経済成長がただ賭博性という曖昧なものだけではなく、企業家・投資家群の運動によってその場所に蓄積される人材、設備などの財として環境に固定資産的に蓄積される。だから一時的な不況で投資が滞り経済成長が停滞しても、蓄積された環境が維持されることで長期的には回復する。

たとえば産業革命は革新的な技術の発明そのものを意味しない。産業革命の前にも技術革新はおこなわれていたが、投資家には遠隔地交易や大規模農業よりも有望とおもわれていなかったのだ。産業革命より重商主義重農主義が先行するのはそのためである。だから産業革命を起こしたのは技術の問題ではなく、それまでに蓄積されてきた産業環境が魅力ある未開地として見出され、資本が流れだしたことによる。




不況も経済成長の一面である


イノベーションが新たなコンベンション(慣習)あるということは、一つにはイノベーションが必ずしも工業的な技術革新である必要がないことを示す。魅力的な未開地を見出すには新たな方法論の「革新」が重要である。

前−資本主義において遠隔地貿易へ資本が投入されたのはまさにそこに未開地があったからだが、その「未開地」はただ土地を表さない。遠隔地が魅力ある「未開地」となるには航海術や為替制度などの発展があって可能になっている。あるいは最近崩壊した金融バブルも証券化などの金融工学によって新たな金融市場という「未開地」が発見されたことによる。

そして一度、有望な未開地として見出されると、投資家が殺到し、好況からバプルに至る。そしてやがて実体経済から乖離したバブルははじけ、投資家は潮が引いたように引き上げ始める。

ケインズは不況の原因を投資家の流動性選好(過剰貯蓄すること)に見出したが、投資の引き上げは、経済そのものを乗数効果に縮小させる。だから不況対策として政府による投資促進があげられた。このような考えると、不況も経済成長の一面であると言える。




イノベーションが世代交代(人の新陳代謝)を必要とする理由


イノベーションが新たなコンベンション(慣習)であるということからわかるもう一つは、イノベーションの困難さを表す。先行者は後発者を排除し収益の独占にも繋がるだろう。さらに収益を上げると言うことは、そこに設備と労働者を投入し、徹底した合理化を進める必要がある。このようにして一度定着したコンベンション(慣習)は人的、環境的な社会の基盤として深く根付き、そこから新たなイノベーションを生み出すことは困難をともなう。だから多くにおいてイノベーションは世代交代(人の新陳代謝)を必要とする。

この意味で、シュンペーターの創造的破壊論における不況時にイノベーションが起こることは間違いとはいえない。ただ真のイノベーションは技術革新そのものではなく、投資の活発化によって起こるために不況はイノベーションの芽を育てる時期と言えるだろう。

たとえばある企業活動を考えると、不況では事業整理とともに、次の収益を描く傾向がある。そこにあるのは、不況であまった人的資源を投入する意味もある。好況で順調にいっているときはいけいいけどんどんで路線変更は難しく、不況下は経営陣、組織の入れ替えなどで、路線変更されるものだ。