ネオリベラリズムの格差はいかに生まれるのか その2  

pikarrr2009-06-26

3 マクドナルドと格差


・「助け合い社会」の解体とは非金銭経済の消失

本当にネオリベラリズムが「助け合いあいの社会」を解体したのか。「三丁目の夕日」(ASIN:B000EPE77S)のような懐古的な幻想ではないのか。「助け合いの社会」があった可能性としては、みなが今ほど貨幣に依存せず自前の生産によっていたということだ。生活において貨幣で購入する商品は一部であり、多くを自前の生産によっていた。余ったおかずをお裾分けする、病気のときに家事を手伝うなどの自前の生産ならば、保有する価値が減るのではなく、自主的な労働を都合することによるために贈与しあうことが容易であった。


・贈与交換がメタ競争レベルを開く

逆にいえば、貨幣−商品という等価交換法則による金銭経済では贈与(助けあい)は排除される。貨幣交換において、知り合いだから安く、知らない人だから高くということではネオリベラリズムが求める市場の公平性は保たれない。しかし相手によって価格がかわることはそれほど珍しいことだろうか。とくに高額な商品の購入や、一回の個人に比べて継続的な関係が期待できる大企業などとの取引では安くなる。ここでは競争のレベルからメタ競争(闘争)のレベルへ近接している。その場その場でルールが決定される。決定される駆け引きが行われている。贈与は金銭経済を腐敗させメタ競争レベルを開く。


ネオリベラルは社会のマクドナルド化をめざす

それに対してマクドナルドは誰に対しても価格は変わらない。ここでネオリベラリズムマクドナルドの関係が明らかになる。ネオリベラリズムでは「経済生活」から「資本主義活動」への富の吸い上げが行われるとしても、封建社会のように単に上から下へ吸い上げることはできない。吸い上げるためには経済の競争を促進し豊かにしなければならない。だからネオリベラリズムは社会のマクドナルド化を目指す。競争レベルではエリートはリスクをもって投資する模範的なプレイヤーである。ただエリートはメタ競争レベルで抜け道を用意して自分だけリスクを下げている。それを可能にするのが権力に基づいた贈与関係である。


マクドナルドは絶対的貧困を緩和する

ネオリベラリズムでは格差があってもそれが競争の結果であれば問題としない。格差そのものが競争の源泉である。だから重視されるのは「相対的な貧困」ではなく、「絶対的な貧困」である。絶対的な貧困者には生活するための最低限の補助(福祉)を行うが、それ以上は再び競争に参加することを求める。このように考えると、ネオリベラリズムは絶対的な貧困を緩和してきたのではないか。その方法がマクドナルドである。安価に安全・安心・寛ぎ・娯楽を提供する。そしてネオリベラリズムはさらに社会を豊かにすることでイノベーションを進めてより高度なサービスまでもマクドナルド化によって提供する。



したがって、新自由主義のもとで台頭しつつある階級権力の実質的な中核部分の一部を構成しているのは、CEO、会社の重役、そして資本が活動するこの聖地をとりまく金融、技術部門のリーダーたちである。とはいえ、資本の実際の所有者たる株主の権力はといえば、企業の方針に影響を行使するに十分なだけの株数を獲得していないかぎり、この間かなり引き下げられた。・・・国家権力との特別な関係が重要な役割を果たした場合も少なくない。

・・・経済の大きな部分に支配権を行使するこの途方もない力は、これらの一握りの人々に、政治プロセスに影響力を行使する巨大な経済権力を授けた。一九九六年における世界の金持ち上位三五八人の純資産が「世界人口の貧困層下位四五%(二三億人)の総収入と同じ」なのは、なんら不思議ではない。なお悪いことに「世界の金持ち上位二〇〇人の純資産は、一九九八年までの四年間で倍以上に膨れ上がり、一兆ドル以上になった。上位三名の億万長者の資産はそれまでに、最も発展の遅れた国々とそこに住む六億人の人々の国民総生産の合計額を上回った」。

この新しい階級編成は国民国家を越えたものと捉えるべきなのか、それとも依然として、もっぱら国民国家の範囲内を基盤にしていると理解すべきなのかという論点が提起され、すでに多くの議論がなされている。P48-50


新自由主義」 デヴィッド・ハーヴェイ (ISBN:4861821061

国際通貨基金IMFが)一貫性を欠いていることが多くの問題につながったという事実は、驚くべきことではないだろう。・・・その理由として考えられるのは、IMFが立ち向かわなければならない問題はあまりに困難なものであり、世界は複雑すぎるということ、、またIMFエコノミストはすみやかに難しい決断を下すべく努力する実務家であって、知的な一貫性を求めて冷静に努力する学者ではないということである。

だが思うに、もっと根本的な理由がある。IMFの本来の目標は、世界の安定性を高め、景気後退の脅威に直面する各国が景気浮揚策をとる資金を確保することだったが、IMFはこれらの目標を追求するだけではなく、金融界の利益をもはかっているのだ。つまり、IMFが掲げる目標はたがいに矛盾していることがしばしばあるのだ。

世界経済のために働く機関が、世界の金融界のために働くことになったのだ。資本市場の自由化はグローバルな経済の安定には寄与しなかったかもしれないが、ウォール街のために広大な市場を開拓したことは間違いない。P294-295


「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」 ジョセフ・E・スティグリッツ (ISBN:4198615195