ベーシックインカム ポストフォーディズム時代の幸福な契約

pikarrr2009-09-20

資本主義による労働の総動員


資本主義の基本は労働の総動員だ。フーコーでいえば、16世紀以降の規律訓練権力。資本主義社会の到来で、国家は国富のために生産性の向上を目指して、社会環境、人員は開拓されて、訓練され、総動員が求められた。これは現代に続く倫理で、みながみずからの方法で社会的貢献をする。これは、経済学では比較優位と呼ばれる。それ以前は、自給自足を基本としていたので、全体の協調という規律はなく、働かない怠け者というのは一定数社会に存在し、人々が許容していた。

たとえばスーパーのパートのおばさんはお客にオマケするか。これはバイトが労働時間=バイト代と直結しているから。おまけするという、自分の労働時間を見ず知らずの人に与えること。なぜそんなことしないといけないの?

それにくらべて、八百屋のおばさんはオマケする。一応、店のオーナーだから労働時間=賃金に直結しない。仕入れ量、売値を決めるなど、全体として利益を考えることができる。100円程度は許容できる。またひいきをつくるなど、長期的なビジョンで利益を考える。自給自足ではみなが「八百屋のおばさん」だったから、怠け者に恵むぐらいの許容はできた。そういう贈与社会だった。




ベーシックインカムという革命


資本主義は、貨幣を基本にすることで、多くをサラリーマンにかえて、労働時間=賃金とすることで、贈与、助け合いなどのゆるさを排除した。効率化重視、そして国民総動員労働を基本とした。だから貧しくても、低賃金で働かなければならない。理念的には、福祉制度は働けない人を再び社会貢献=労働へもどすことを基本にする。すなわちチャンスを与える。決して労働から離れることは許されない。

これは共産主義でも同じである。共産主義は専業主婦も許されない。みなが私的ではなく、公的な労働に等しく従事することが求められる。マルクスが非労働者をルンペンプロレタリアートと呼んで蔑視した。

このような歴史から考えると、BIは革命的な福祉制度だ。生活必要な最低額を与えると言うことは、そこに「労働しない」という選択肢を与える。封建社会→資本主義社会(共産主義社会)→BI社会といってもいいぐらいのパラダイムシフトであり、革命である。イデオロギーとしては、「貧困の自由」といういままでにない最大の自由を与える。




ポストフォーディズムの自由


しかし一部ネオリベラルが支持しているのが不気味である。たとえば最近の左派の言説にポストフォーディズム批判がある。従来の左派とは、国民を労働へ総動員しつつ搾取する資本主義への対抗運動であった。しかし現在のポストフォーティズムでは、資本主義では決して労働へ総動員しない。働きたいならば働けばいい。よい仕事をしたければ、自己努力をすればいい。すなわちネオリベラリズムは労働者を解放し、自己責任を重視している。

ネオリベラリズムでは、労働者を抱え込まず、必要なときに必要なだけ雇うことという形態に変わってきていることによる。このような傾向は創造的な高賃金と、ルーチンワークの低賃金が分離されている第三次産業へ労働の中心になっていることによる。

すなわちポストフォーディズムでは、労働者の自由が達成されて、企業側もそれを許容している。これがいいこととみるか、わるいこととみるか。今回の日雇い派遣の問題も結果的に不況になってみごとに雇用の調整弁として利用されたが、そのはじめは新たな自由なライフスタイルとして自ら選んだ者も多かった。




ポストフォーディズム時代の福祉政策


ポストフォーディズムにおいて、従来の労働保護政策は有用だろうか。再度言えば、働けない人を再び社会貢献=労働へもどす。社会環境を整備して、人員を教育、訓練し、豊かな労働市場をもとめて企業へ投資する。

企業がポストフォーディズムを求めるようになったのか。もはや労働者へ安定した雇用を与えることができなくなったからだ。企業の効率化を考えたときに、雇用はもっとも容易な調整弁であることが求められる。設備は簡単に売ったり、買ったりできない。タイムラグが生じるし、決断が求められる。それに比べて、雇用は明日にでも出し入れできる。労働組合に守られている正社員では難しいが、非正規雇用なら。

だからBIは「貧困の自由」まで許容するという革命的な自由の獲得であるとともに、ネオリベラリズムに利用されやすい危うい面をもつ。最低の金を渡しているのだから、あとは自由に。もう少し豊かになりたいなら、雇用の調整弁になってください。

最低金を支給し、非正規雇用を生き長らえさせつつ、必要なときに雇用する。これは、「貧困の自由」を手に入れたものと、必要なときに低賃金雇用をもとめる企業の利害が一致するポストフォーディズム時代の形態であるといえる。

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