モンスターハンターはなぜリアルなのか 偶然性と慣れ二つのリアル 

pikarrr2009-11-12

モンスターハンターとしての訓練


モンスターハンターではプレイ時間が千時間を超える人はざらにいる。このようなゲームは他にはないだろう。ゲームとしては同じミッションをくり返しプレイするにもかかわらずに、「作業ゲー」にならずに毎回リアルな体験生み出すことに成功している。

モンスターハンター「身体」のゲームである。重要なことは徹底的な「慣れ」である。武器を思い通りに操れるようになる。体を思い通りに使えるようになる。モンスターの動きを体で覚えて間合いを見切る。さらには環境になれなければならない。フィールドにあわせて動きを合わせなければならない。同じモンスターでもフィールドになれていないとうまく立ち回ることができない。考える前に体が動かなければならない。だから重要なのは判断よりリズムである。

判断→身体運動(指の動き)→ゲームボタン操作→画面キャラの動きという操作の中で、判断→画面キャラの動きが短絡しないといけない。どのように指を動かし、ボタンを操作しているのか、自分でもわからない。判断し画面キャラが動いている。さらに言えば判断よりも先に画面キャラが動いていなければならない。自分の体のように画面キャラが動く、いや動いてしまっていなければならない。それほどにくり返しくり返し練習をして、ハンターとして訓練し、体で覚えて「慣れ」て、モンスターを見切る必要がある。




モンスターハンターとしての痛み


モンスターには多くの打撃を与え続けなければ倒せないのに対して、攻撃を連続数発うけると殺されてしまう。戦闘中はモンスターから一瞬も目を離すことはできない。相手も動きを見極めつつ立ち回らなければならない。高い集中力が求められる。自然と体が反応するよう精神をとぎすまさなければならないのだ。

ハンターは繰り返し繰り返し狩りにでかけ、弱い敵から徐々に強い敵へ腕をあげていく。それでも油断はできない。わずかな隙が命取りになる。50分という限られた時間の中で相手を追いつめて、相手の攻撃を巧みにかわし、的確に攻撃をヒットさせつづけて、討伐する必要があるのだ。そして繰り返し繰り返しによって、自らの体のように動かせるようになったとき、受ける攻撃も、自らが受けるような恐怖となる。痛くはないが痛いのだ。




物欲センサーという神話


モンスターハンターには物欲センサーがついているという神話がある。モンスターを倒すことでさまざまな素材を採取することができる。そしてその素材を使って新たに武器をつくることができる。しかし素材は確率的にしか採取されないので、貴重な素材を求めて何度も同じモンスターを倒すことになる。

このとき何匹倒そうがなかなか求める素材が取れないということが起こる。なのに、それを求めていないときに簡単に採れたりする。そのようなことから、プレーヤーが欲しがっている素材を察知して、でないようにしているという「意思」が働いているというまことしやかな神話が語られているのだ。これが物欲センサーと呼ばれる。

これ以外にも、モンスターハンターをプレイしていると「意思」が組み込まれているのではと、感じてしまうことが多々ある。たとえばうまい立ち回りでボスモンスターと戦えているのに、絶妙なタイミングで雑魚キャラが邪魔をしてくる。雑魚キャラの攻撃力は弱く無視していいのだが、雑魚キャラの攻撃でつまずかされたその絶妙なタイミングでボスキャラがたたみかけてくる。まあ一度はあるだろうと思っているとそのような偶然がなんども続くのだ!




偶然性がリアルを生み出す


このような錯覚を生み出しているのが「偶然性」である。ゲームである以上、プログラムにそって予定調和の動きをしているはずである。しかしボスキャラの動き、雑魚キャラの動き、キャラの動きの制約、地形の制約などの予定調和なプログラムが並列して作動することで、予定にない状況が生み出されていく。

モンスターハンターは制限時間50分内で狙いのモンスターを倒すとミッションを基本にするが、同じミッションであっても一度として同じ「体験」はない。毎回毎回違う「体験」を味わうことになる。予測されない偶然性によって、一度きりの「体験」が生み出される。

「リアル」とはヴァーチャルリアリティという現実に近い五感的な体験ではなく、まさに偶然性が生み出す一度きり感、すなわち決してやり直せない時間の体験である。僕達は日々、生活の中で一方向で決して戻れない時間を過ごしている。そこに緊張があり「リアル」がある。そして偶然があまりに絶妙なときに「意思」を感じてしまう。このような形而上学は人にとっての最高の没入体験だろう。疑いえない「信念」となる。人々はモンスターハンターをすることで数十分の「リアル」なハンター体験に没入するのだ。


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*1:参照:なぜ「モンスターハンター」はおもしろいのか http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20070323#p1

*2:参照:なぜ「モンスターハンター」はおもしろいのか その2 http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20070406#p1

*3:画像元 http://hanters.blog.shinobi.jp/Date/20090715/1/