日本人に哲学思想は必要か NHK「ハーバード 白熱教室」

現代の正義、アリストテレスの正義、日本人の正義


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NHK 「ハーバード 白熱教室 "Justice with Michael Sandel"」 http://www.nhk.or.jp/harvard/


アリストテレスの考える正義とは、「適合」ということである。つまり、美徳や卓越性を備えた者は、それにふさわしい役割を与えられなければならないのだ。アリストテレス奴隷制を擁護した。政治を論じ合うため、市民は、単純作業や家事から解放されなければならず、その雑用を引き受ける存在が必要だからである。さらには、生まれつき統治されることに適した人間がいるとまで言い切っている。人間には、自分自身の役割を決める自由があるのではないか。サンデル教授は、アリストテレスへの反論を検証しながら、その哲学は本当に、過度に個人の自由を制限しているかを議論する。

NHKのサンデル先生の講義、「ハーバード 白熱教室」を今日、はじめて見たけど、面白いね。今日の広義では、現代のローカルな価値を排除した正義と、アリストテレス的なローカルな価値も考慮した正義との違いを説明していた。でも、日本人的な正義ってまた違うよね。日本人もローカルな価値を重視するわけだけど、「ふさわしい役割」というような一元的なものではなく、社会に埋め込まれ、柔軟で、その場その場の決まる正義。

その中で生きている日本人は、このような西洋的は正義の議論は正直堅苦しくて、どこかでちょっと笑ってしまう。西洋文化のこのような美しく積み上げられた言語作品には感心するけど、そんなのなくても社会の成立に問題はないよ、と思ってしまう。あるいはここまで解を求めよう、言語として現前化することへの偏執そのものに恐怖を感じてしまう。

たしかに日本には民主主義はない。民主主義とか、主体とかいうのはこういう文化からしか生まれないんだろうね。でも民主主義がなくても社会は成立するし、民主主義の生み出す恐怖もある。




日本には民主主義はないが資本主義への高い順応性がある


現代の西洋的の正義議論って、功利主義=貨幣価値との対立が論点じゃないのかな。資本主義社会が生み出した、功利主義的な価値観に還元されつつ、還元されない残余としての正義とはなにか。

いまの西洋哲学って、近代(近世)に生まれたわけで、啓蒙主義にしろ、資本主義=貨幣社会の影響から生まれた訳で、民主主義なんてまさに資本主義の裏面みたいなものでしょ。

その意味では、日本が資本主義にどっぷりはまりつつも、順応しているということは、日本人は功利主義に順応しているということが重要なんじゃないだろうか。それは西洋とまた違う方法で、西洋よりもより適応している面もある。

日本が経済大国になり、幸福な国を作り出せたのも、日本人独自の功利主義への順応性によると思う。日本には民主主義はないけど、資本主義には高い順応性を生み出し、高い生産性を達成し、幸せな社会を生み出した日本はすごいよね。




日本人の護送船団方式の資本主義


では日本人の資本主義への高い順応性とはなにか。日本人といってもほとんどが元農民で、市民としての権利、義務とか考えたことないんだよね。江戸時代は当然、明治開国も武士層がやってことで、その後富国強兵で動員されて、戦後になってやっと民主主義が、と思ったところに、冷戦構造で左派は虐げられて、戦前からの護送船団の会社人間。

最近、会社が弱体化して、民主党リベラルで政治への関心が高まっているといっても、結局、興味があるのは、子供手当、仕分けと、どんだけ金がもらえるか、富の分配だけなんだよね。高度資本主義の消費システムに充足して、消極的自由の中で、市民意識なんてめんどくさいもの興味ないもの。

ってことは、これから日本人やばいのかな。いまからでもサンデル先生に弟子入りして間に合うかな。

日本の良さが若者をダメにする レジス・アルノー  http://newsweekjapan.jp/column/tokyoeye/2010/04/post-158.php


18歳になるまで日本で暮らしたフランス人の多く(いや、ほとんどかもしれない)が選ぶのは、フランスよりも日本だ。なぜか。彼らは日本社会の柔和さや格差の小ささ、日常生活の質の高さを知っているからだ。

日本とフランスの両方で税務署や郵便局を利用したり、郊外の電車に乗ってみれば、よく分かる。日本は清潔で効率が良く、マナーもいい。フランスのこうした場所は、不潔で効率が悪くて、係員は攻撃的だ。2つの国で同じ体験をした人なら、100%私の意見に賛成するだろう。

日本の若者は自分の国の良さをちゃんと理解していない。日本の本当の素晴らしさとは、自動車やロボットではなく日常生活にひそむ英知だ。だが日本と外国の両方で暮らしたことがなければ、このことに気付かない。ある意味で日本の生活は、素晴らし過ぎるのかもしれない。日本の若者も、日本で暮らすフランス人の若者も、どこかの国の王様のような快適な生活に慣れ切っている。

外国に出れば、「ジャングル」が待ち受けているのだ。だからあえて言うが、若者はどうか世界に飛び出してほしい。ジャングルでのサバイバル法を学ばなければ、日本はますます世界から浮いて孤立することになる。「素晴らしくて孤独な国」という道を選ぶというのであれば別だが。


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