日本企業の生き残り戦略 「世間にこもる」か「世界よし」か

貧困の金融商品


BS1スペシャル「マネーの狂わせた世界で 金融工学者の苦悩と挑戦」(http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/2443/2409179/index.html)が面白かった。アメリカの金融工学がソーシャルファイナンス金融商品化を進めている。各国の金融緩和でリーマンショック前以上に世界にマネーがあふれている。でも投資市場にあふれて、実体経済には回らず、世界の貧困が激しい。この溝を埋めるために、金融工学を活用して貧困への投資を金融商品化する。

ゼロ金利、あるいはマイナス金利の状況では、わずかな儲けでもやる意味がある。投資市場では金が余りすぎて不安定化しているので、実体経済への投資の方が堅実。また金融工学を世界の貧困対策へ貢献させたい理念もある。

具体的な成功例では、アメリカの貧困地域への投資を金融商品化して、資金を集めて、街を整備、失業者を訓練して雇用を確保。街自体が活性化して、人が集まり、儲けが生まれて、投資家に配当している。

アメリカ人らしい。科学合理主義でありながら、キリスト教的奉仕の精神もある。この金融工学者はアメリカでも進めるんだけど、ギリシアに出向いて、多くの企業と面談して、貧困の金融商品化を進めようとしてる。そこに貧困のニーズがあるということだろうけど、やっぱここには世界を良くしようという理念がある。




「世間よし」の限界


いまの日本人は「景気が悪い、なんとか儲けたい、経済成長したい」ということが先行して、理念がないじゃないだろうか。一つは、日本人の世界が「世間」止まりだからだろう。「世間」、日本人社会がもうそこそこ豊かさで利便で飽和してる。いまさら「世間よし」なんてインセンティブがわかない。

世間にこもるから日本人の慈悲型贈与交換が空回りする。製品開発は世間のためから、ユーザーニーズを離れて、開発そのものが目的化する。そこにあるのは仕事好きだから。あと雇用問題もあるだろう。日本は終身雇用的で、開発しないといけない。でも世間から出るのはつらい。世間は居心地がいい。日本の外に愛着はないい、言葉が通じないし、ニュアンスが通じないし、外国人のためになにかをするインセンティブがわかない。

慈悲とは自らを滅して、世界に奉仕することだ。だから本来、世間とは世界だった。武士の仁政型再配分は儒教から来てるが、中国で日本の武士ほど「清らかな」権力者がいたんだろうか。その「清らかさ」の動力は慈悲だったと思う。「慈悲2.0」とは、「世界」を良くしたいという理念の回帰でもあると思う。




「世間にこもる」家電産業と「世界よし」の自動車産業


最近、NHKクローズアップ現代」で三洋電機がハイアールに買収されたあとのドキュメントをやっていた。ハイアール部隊が中国など世界の家電ニーズを拾ってきて、日本の旧三洋電機部隊が製品化する。経営層の決断も早くて、開発期間も半分になったという。

シャープのケースもそうだけど、日本の家電企業に世界で渡り歩く力はない。世界と渡り歩くには、世界に出向き、ニーズを拾い、交渉し、世界に展開するだけと大量に生産し、世界に向けて販売する。だから日本の製造業の一つの立ち位置は日本にこもった仕事になる。開発部隊として、精密部品の生産部隊として活躍する。こもって貢献することも一つのあり方だ。その意味でシャープはよい決断だと思う。日本の産業機構なんて任せたら、単に整理・縮小になっていただろう。

その点、日本の自動車産業は頑張ってると思う。家電との違いは、安全と環境の規制が厳しいこと。だから単純に途上国とのコスト競争に陥らない。しかしさらには自動車産業は単に製品を輸出するのではなく、最初から現地の販売網を構築しないと売れない商品だから、販売、生産を現地に根付いて進めた。そこに現地を知り、現地のために活動するという、かつての近江商人の「三方よし」を継承するトヨタの「世間よしから世界よしへ」の「慈悲2.0」が生きているのかもしれない。

自動車産業新時代をリードする「トヨタビジネス革命」
「現地現物」は次なるステージへ
設計から生産まで100%現地調達化:地域仕様車の開発


「 道 が ク ル マ を つ く る 」と い う の が 、こ れ か ら の ク ル マ 作 り の 原 点 と な り ま す 。地 域 ご と に 道 路 の 整 備 状況や燃料価格、消費者ニーズも異なります。特に成長著しく、変化も激しい新興国で成長を果たすに は、消費者ニーズや道路の整備状況など地域特性を踏まえたクルマ作りが重要です。このたび商品化に 至ったインド市場向けの小型車「エティオス」は、単なるグローバルモデルの流用ではなく、設計段階から 現地調達が可能な素材や現地生産技術に対応した構造・工法としたことで画期的といえます。
「良品廉価」 なクルマづくりを目指し、部品の現地調達を徹底し、生産までをすべて現地で完結する地域最適設計を 進め、このノウハウを他の新興国市場や世界各国にも展開する計画です。
https://www.toyota.co.jp/jpn/investors/library/annual/pdf/2010/p06_11.pdf


*1

*1:画像元