なぜ「信頼」は裏切られ続けるのか。

pikarrr2006-01-27

社会という「信頼関係」

姉歯建築偽造問題でも、ホリエモン逮捕でも、アメリカ牛肉問題でも、露呈しているのは、僕らはある「信頼関係」の中で生きているということだ。だから「まさかそこまで」ということが起こる。これはいかんともしがだいだろう。どのような厳しい規制、管理をおこなわれようが、「信頼関係」の領域は残るだろう。

これは規制の問題ではなく、コミュニケーションの問題である。完全なコミュニケーションは存在せず、他者との間にはかならず「暗闇への飛躍」があり、自己責任で、リスクを抱え、「信頼」を持ち、飛び込むしかない。すなわちこれは確率論の世界である。

しかしだからといって、まるでジャングルを徘徊するように、毎日リスクの高い世界の中で、どこの誰かわからない人とで会い続け、何がおこるかわからないことには人々は耐えられない。だからこのようなリスクを低減するために、「社会」がある。それは、国による法というだけではなく、道徳や常識などのような漠然とした決まりがあり、守られるだろうという「信頼」である。それらによって、世界はジャングルからリスクが低減した「人間社会」となる。




「信頼関係」という拘束


姉歯問題では一部国からの保障があるようだが、ライブドア株の暴落による損失には保障はないだろう。社会の「信頼関係」が希薄になり、国の補助にも限界があり、リスクの中で、自己責任が求められるというたいへんな時代である。しかし人々がこれを望んでいるということが重要である。

社会では、リスクを低減するために、漠然とでも取り決めや、常識を共有し、それからはずれたことはしない、はずれた人を避ける、排除するということで「信頼」は保たれている。しかし人々はこのような「社会性」を拘束的なものとして感じはじめている。

たとえばモヒカンなどの奇抜なファッションなどで、商店街の食堂屋にいくと、店員はその素性を詮索する。あるいは詮索しているように感じでバツが悪くなる。あるいは近所の人とはきちんと挨拶をする。ある程度の愛想を交わしあう。そこには、人の間の「社会的な信頼関係」があり、それを裏切る相手は恐怖である。

しかし最近マックなどのファーストフードや、コンビニ、ファミレスなどでは、このような「社会的な信頼関係」は重視されない。どのような身なりだろうが、態度だろうが、同じスマイルで対応する。そしてなじみだからおまけする、などなく、誰に対しても規格化された、同じ味の料理が出される。客と店員との間にあるのは、社会的な信頼関係はなく、店が決めたマニュアルだ。




「社会の底を抜き」生き生きしたい欲望


人々は、社会的なつきあいをめんどくさいもの、拘束と考えて、一つの身体として扱われることを望む。しかしこれは人々の無気力化ということではないと思う。人々は社会的な「信頼関係」が古くなったと考え、画一的な社会の価値の拘束でなく、多くにおいて趣味的な、より小さなコミュニティの小さな価値観へ向かっている。

社会的に、リスクが増し、自己責任が増えても、自分なりの価値観を選択したい、「自由でいたい」と考えているのだ。なぜなら、他者への「賭け」という緊張感において、欲望が生まれ、日々の生き生きとしたリアリティが生まれるからだ。もはや今までの社会的な「信頼関係」ではリアリティを感じることができないのだ。

このように社会的な「信頼関係」が崩れていることを宮台は「社会の底が抜けた」といった。*1たとえば最近は幼児殺害など「痛ましい事件」が増えているというとき、それは件数の問題でなく、「常識」的な理由、関係での「正しい殺人関係」ではなく、「社会の底が抜けた」殺人が増えているという意味だろう。

僕達は「社会の底が抜ける」ことを望んでいる。かつて貧しいときは、食料を手に入れるということだけで、ある種の「信頼関係」に賭ける必要があっただろう。それは望んでいなくても緊張感である。しかし豊かになったいま、それは失われている。

リスクを低減するために社会を作り上げてきたが、人々はできすぎた社会の底を抜いて、現れる「賭け」という緊張感を欲望し、生き生きしたいと望んでいる。それは安易な選択であっても、おそらく人はそのような緊張感(無垢)を欲望し続け、生きていくのだろう。

これが姉歯ホリエモンの違法行為を正当化するものではないが、そのような社会の中で現れた現象であり、今後も社会の漠然とした「信頼」は裏切られ続けるのではないだろうか。

*2

*1:なぜ宮台は「世界」の中心で「魂」と叫ぶのか http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20050502#p1

*2:画像元 http://www.nikkansports.com/ns/general/p-so-tp0-060124-0008.html