ネットと社会はなぜ「断絶」するのか その7 YouTubeの事例
「スプー」祭り
「スプー」削除の舞台裏 「YouTube」にテレビ局苦慮
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060607-00000075-zdn_n-sci
米YouTubeが運営する動画共有サイト「YouTube」からこのほど、NHKの動画「スプーの絵描き歌」が削除された。NHKは「当協会の著作権を侵害している」として米YouTubeにメールで削除を要請。翌日には削除されたという。
NHKの要請で削除されたのは、今年4月にNHK教育テレビが放映した「おかあさんといっしょ」の一部。出演者が「スプーの絵描き歌」を歌いながら、番組キャラクター「スプー」の似顔絵を描くという内容の数分間の映像だ。・・・出演者の1人で「うたのお姉さん」こと、はいだしょうこさんが描いた似顔絵が「あまりにユニーク」と掲示板やブログ、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などで話題となり、多くのユーザーが視聴した。似顔絵を模写した絵やアスキーアート(AA)、パロディー動画、ゲームなども次々にネット公開され、人気を呼んだ。
YouTubeは著作権を侵害する動画の公開を禁じており、違法コンテンツの削除フローも徐々に簡略化しているようだ。・・・とはいえ、YouTubeの動画は、1度削除して終わりではない。公開されている間に動画をダウンロードし、ローカルに保存したユーザーなどが、削除を知るなり再アップすることが多いためだ。絵描き歌の動画も、削除後すぐYouTubeに再アップされ、現在も公開されている。
「違法コンテンツをすべて把握し、いちいち削除依頼を出すことは不可能に近い」――NHKとフジテレビはこう口をそろえる。NHK広報局は「YouTubeの動画を毎日1つ1つ確認するのは大変で、人員も足りない」とし、視聴者から通報があった場合のみ、違法かどうかを確認して削除依頼を出しているという。通報は今年に入って目立って増えているというが、増え続けるコンテンツに対応が追いつかない。
それでも指をくわえているわけにはいかない。フジテレビは、米国のテレビ局などYouTubeに抗議している団体の動きを注視しながら、訴訟を含めて今後の対応を検討するとしている。日本テレビ放送網も「当社の番組がYouTubeにアップされていることは、明らかな著作権侵害と考えており、削除要請も検討している」とコメントした。
Winny著作権侵害 特定へ
http://www3.nhk.or.jp/news/2006/06/09/d20060608000161.html
ファイル交換ソフトの「Winny」をめぐっては、映画や音楽などがインターネット上で大量にやり取りされ、著作権法に違反するとして問題になっていますが、「Winny」は暗号を使っているため、誰が不正なやり取りをしているのか特定しにくく、決め手となる対策はありませんでした。
今回アメリカの情報セキュリティー会社が開発したプログラムは、映画や音楽などのファイル名を入力すると、「Winny」の暗号を解読しながらネットワークを検索し、ファイルがあるパソコンのアドレスをすべて表示する仕組みになっています。つまり、誰が著作権のある映画などを不正にやり取りしているかを突き止めることができるのです。
プログラムは著作権保護団体に限って提供され、これまでに、日本国際映画著作権協会とコンピュータソフトウェア著作権協会が来月以降利用し始めることにしたほか、JASRAC・日本音楽著作権協会も利用する方向で検討しています。また、国内のインターネットプロバイダーでつくる団体は、すでに協力することを決めており、著作権団体から要請があった場合、パソコンのアドレスから利用者を特定し、ファイルの削除を求めることにしています。
著作権保護団体では「これまで匿名で行われていた不法行為が白日の下にさらされることになり、抑止効果が働くと期待しているが、悪質な不正については刑事告発をしていく」と話しています。インターネットでは、最近「Winny」とほぼ同じ機能を持つ「Share」と呼ばれるソフトの利用も増えていますが、今回のプログラムは、近く「Share」にも対応できるようになるということです。
「スプー」祭りの「断絶」
ここにはボクが示した「透きとおった大きな内部の断絶構造」が示されているのではないだろうか。
登場人物は、「小さな内部」・・・ネット住人、「大きな内部」・・・テレビメディア、「ネット企業」・・・YouTubeである。
YouTubeやWinnyを楽しむネット住人は「大きな内部」では秩序を守り暮らしている普通の人である。その彼らが「小さな内部」のネット住人としてYouTubeやWinnyを通して、明らかに「大きな内部」の秩序である著作権保護に違反する行為を行っている。
この違法行為はテレビメディアへの反逆として行われているのだろうか。ネット住人には罪の意識は低いだろう。みんながやっていることだから、すなわちネットという「小さな内部」ではもはや伝統的、正統な行為である。これには負債感も感じない無意識な略奪(純粋略奪)がある。
さらに今回は「スプー」祭りと化しており、削除されたことがさらに祭りを盛り上げている。より大きな「純粋略奪の快楽」を生んでいる。
テレビメディアはこれに対応し、YouTubeに「削除依頼」を出している。YouTubeも「大きな内部」の一員であるので、その正統な処理として削除している。ただ穴の開いたバケツのように漏れが止まらないだけだ。
ここでYouTubeには確信犯的なものがあるのではないだろうか。「大きな内部」の論理に従い正統な処理を行いながら、「小さな内部」の論理ではこの違法が止まらないこと、そして止まらないことがYouTubeの成功につながることを知っているのである。このYouTubeの場合はあざとすぎる気もするので、法的に停止される可能性あるかもしれない。しかしGoogleなどのネット企業は「大きな内部」と「小さな内部」の境界に位置取ることによって、利を得るのである。
テレビメディアは、Winny対策プログラムを導入するという。これはネット住人には監視されていることがわからないように監視する方法であり、「環境管理権力」を強化する典型である。(プライバシーの問題もありそうだが?)
まずは「対立」でなく「断絶」であることを知ること
ではこの先はどのようになるのか。ネット住人はこれを回避し、同様に「犯罪」を繰り返していくだろう。Winny対策プログラム対策「Winny」をネット住人は、罪の意識なく、楽しく、誇らしげに作り、そしてタダでばらまくだろう。それが「純粋略奪の快楽」である。
もはや「脱社会的」な成員=「マルチチュード」は東が考えるような「不必要に拡大しないように監視すべき」例外的な存在ではない。「大きな内部」の普通の人である。
そしてそれぞれの論理で対応してもいたちごっこである。まずはこれが「対立」でなく「断絶」であることを知ることだ。
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*1:画像元 スプーまとめ @Wiki http://www13.atwiki.jp/supu/