なぜ仕事はおもしろいのか その2

pikarrr2006-11-12

id:fuku33
はじめまして。いつも興味深く拝読させていただいているものです。(エントリー「なぜ仕事はおもしろいのか」 http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20061110において)「労働機械」「精密機械」として表現を対比させるのも面白いと思うのですが、前者は「既に要求成果が言語化されているが故に動作としての労働が求められている生体労働機械であってその職務は自動化できないこともないがコストと柔軟性の兼ね合いで未だされていないに過ぎないもの」であって、後者は「前者に対する要求成果の言語化そのものが職務であり、そのために未言語化の存在に向き合い精密に情報を処理する担当者でありその労働は機械的では決してない意思決定主体」ですから、「どっちも機械と機械である」と言うとなにかもったいない気がします。

実際には社会が価値と認める財に対する要求精度が上がり続け、このブレンダーの方のような熟練技能者の更なる技能向上への要求も尽きないわけですし。

ただそのプロセスで、前者と後者で言語化の結果を受け止める人」言語化そのものに携わる人」というおそるべき階層化が起きている先にあるものになにがあるのかはちょっと怖い気がするのですが。乱文乱筆お許しください。

id:pikarrr
はじめましてfuku33さん、レスありがとうございます。言われていることはわかります。言語化の結果を受け止める人」言語化そのものに携わる人」というおそるべき階層化」は、まさに格差社会、低賃金単純労働と高収入知的労働につながる議論だと思います。

指摘されて気がついたのは、この記事はアイロニカルな面があるなということです。ブレンダーの方の仕事は正確な利き酒の能力とそれを元に新たなウイスキーをつくるクリエイティブな面を分けることができると思います。「精密機械」と呼んだのはこの利き酒の正確さです。

ブレンダーの方はこの仕事にブライドを持っていますが、ここまで会社のために身体を先鋭化することになにか違和感を感じました。それがネガティブな「機械」という表現になったのだとおもいます。

ネガティブな意味でいうと、割り切ってコンビニで労働機械化しあとはやりたいことを探すフリーターと、会社に多くを捧げ、そこに自分を見いだすストイックな精密機械であるブレンダー。どちらが幸せだろうか?当然答えなどありませんが、これは格差社会をただ搾取の問題だけに捉えられない点ではないでしょうか。あとだしジャンケンのようなレスがになってしまいましたが、レスをいただいて気付かされました。

id:fuku33
こちらこそいつも勉強させて頂いています。このブレンダーの方のお仕事が面白いのは、この方が進まれている前方には未決定の発見論的・創造的なフィールドがあり、この方がそれを言語化(知識化・レシピ化)された後には決定論的・再現的な仕事だけが残る(ちょっと極端に言い過ぎで、実際はどんな仕事も向上を志せば創意工夫の余地があると思いますが、大組織ではそれを要求されにくくなっている)。

ブレンダーの方は価値観を創造しそれを価値物として複製する境界線上にいるからその両面があります。ブレンダーの方の「バイアス無きセンサーとしての自分をメンテナンスするための節制」は確かにストイックですが、その先には「うまいウイスキーとはどんなものか」を自分で決められるクリエイティヴな喜びもあるでしょう。

自分は無気力な大学生に経営学を教えるバイトをしていますが、彼らはまるで砂漠で水を見つけたときのように「それを目にすると自ずと駆り立てられて意欲が湧いてくるような課題」がどこかにあってそれといつか巡り合えないか、と夢見ているかのような他力本願的態度で、欲望の駆動源を外部に求めている時点で、一見「やりたいことをやっているので組織に縛られない」ようでいて実は凄まじく主体性がない、自立性もない受け身のスタイルに見えるのです。

経済的損得勝ち負けの格差よりも、この根本的な能動−受動的態度間の差異の方が根本的な現象ではないかと思います。それを問題と見るか見ないかは人それぞれでしょうが。またも乱筆ですみません。

id:pikarrr
先生に「勉強」とか言われると恐縮しますが、続けさせていただくと、ブレンダーの方の仕事を正確な利き酒の能力とそれを元に新たなウイスキーをつくるクリエイティブな面に分け、この利き酒の正確さを「精密機械」と呼び、注目したもう一つの理由は、精密機械の面に驚いたのに対して、クリエイティブな面にはあまり驚きがなかったからです。

たとえば番組でブレンダーの方がつくったウイスキーが売れなくて、味の選定に妥協したからだと反省されています。しかしほんとうにそうでしょうか。ウイスキーには詳しくないのでよくわかりませんが、一般的な商品の販売において、内容よりも広告などの方が影響が大きい時代です。ある意味で自意識過剰かなと思います。そのように思いこめ、それを乗り越えようとする強いプライドがうらやましいわけですが。

ボクは「未決定の発見論的・創造的なフィールド」「無垢」と呼んでいますが、正確には「無垢」は物理的に未決定というだけでなく、他者に強く欲望されている必要があると思っています。他者がそれを求めていることで、そこに「発見すべき、創造すべき未決定フィールド」が現れる。価値多様な時代では人々の欲望は分散し、うつろいやすく、このような「無垢」の強度は低下していると思います。

だからこのブレンダーの方がこれだけ強いプライドをもてるのはうらやましいとともに、違和感もあります。かってに想像するに、サントリー社内の中でこのポジションは最重要視(社員に強く尊敬(欲望))されているのではないでしょうか。すなわち会社依存度がとても高い方ではないか、ということです。

この理屈は裏返せば、フリーター、「無気力な大学生」擁護にも使えます。もはやなかなかこのような幸福な没入はできない。そんな欲望を共有しにくい時代に生まれた彼らは不幸だ。あるいは、動物化している。ゲーム、ネットなど回りに簡単に手に入る生理的快楽が多く、欲望が想起されにくいなど。といっても、別に擁護するまったくつもりもありませんし、ブレンダーの方をかっこいいとも思っているわけですが。

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*1:本内容は、「なぜ仕事はおもしろいのか」http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20061110のコメント欄からの転用です。

*2:画像元 http://www.basara-web.com/ukyou/items/items-000108.shtml