「富の未来 上」 アルビン・トフラー(2006) 

pikarrr2009-12-30

ISBN:4062134527

金銭経済はもっと大きな富の体制の一部でしかなく、ほとんど注目されていないが、「生産消費活動」と呼ぶものに基づいて世界的で巨大な非金銭経済から提供された価値に依存している。

・・・経済統計の対象になっているものだけから富が生み出されているという想定、「価値」が生み出されるのは金銭経済のやりとりがあったときだとする想定などである。これらの想定を捨てて、もっと大きな「富の体制」に注意を向けるべきである。金銭経済が生産消費者の提供する「タダ飯」に支えられて存続しており、生産消費者には金銭経済に挑戦する力すらあることに注目すべきだ。P370-374

1 生産消費者は「第三の仕事」とセルフ・サービスの活動によって、無報酬の仕事を行っている。ATMを使い、スーパーでセルフ・レジを使って、金銭経済の労働コストを削減し、単純労働の職を減らしている。


2 生産消費者は金銭経済から「資本財」を購入している。


3 生産消費者は自分の危機や資本財を金銭経済にユーザーに貸している。医療、環境、天体観測など、社会に重要な目的のために、パソコンの遊んでいる演算能力を無料で提供している。


4 生産消費者は住宅を改良している。


5 生産消費者は製品やサービス、スキルを「市場化」している。たとえばリナックスは生産消費者によって市場の外部で開発され、その結果、金銭経済の市場で重要な製品が作られた。


6 生産消費者はさらに、製品やサービスを「非市場化」している。タダ同然の代替品を提供して、既存の製品やサービスを市場から放逐している。


7 生産消費者はボランティアとして価値を生み出している。


8 生産消費者は貴重な情報を営利企業へ提供している。「口コミ・マーケティングを行うなど、さまざまなサービスを無報酬で行っている。


9 生産消費者は金銭経済で消費者の力を強めている。何を買い、何を買わないかの情報を交換している。


10 生産消費者はイノベーションを加速している。無報酬の「グル」として、案内人として、助言者として、生産消費者は最新の技術製品が登場すると素早く使い方を教えあい、金銭経済での生産性を高めている。


11 生産消費者はインターネットで急速に知識を生み出し、広め、蓄積して、知識経済が利用できるようにしている。


12 生産消費者は子供を育て、労働力を再生産している。
P371-374




トフラーが1980年の「第三の波」ISBN:4122009537)ですでに、非金銭経済、生産消費者に注目していたのには驚かされる。なぜなら生産技術者とはいまもボクたちであって、非金銭経済とはウェブそのものだからだ。

ただ保守派らしくて全体が楽観に満ちている。無報酬で金銭経済へ貢献しているということは、左派(ポストフォーディズム)の文脈いえば「タダでこき使われている」ということになる。現に無報酬で金銭経済へ貢献する生産消費者たちの現実の生活が、派遣やフリーターなどで低賃金に支えられているという面もある。

たとえばGoogleなどのIT企業は、非金銭経済を豊かにするための生産消費者の強力な支援者といえるが、当然、営利企業であって生産消費者の無報酬を巧みにつかって儲けているともいえる。この意味では、トフラー「第三の波」、生産消費者とネグリ「帝国」マルチチュードISBN:4753102246)は同じものの表裏といえる。

どちらにしろ、新たな波は、情報技術によって単に効率が飛躍的に向上する以上に、社会構造をシフトさせる。そのキーワードが経済学の外である非金銭経済、生産消費者ということだろう。その意味でもGoogleってまさに世界の最先端にいる、すごいと思ってしまう。
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