古代史 中国情勢と日本の統治

pikarrr2011-09-28

南北朝の混乱と朝鮮半島のパワーバランス


魏志倭人伝として有名な、卑弥呼が魏に貢ぎ物を送る前、漢時代の1世紀頃から日本列島から中国への貢ぎ物の記録は始まっている。

日本が縄文時代だったころ、すでに中国には巨大な国家があった。日本人は朝鮮半島と交流を通して、中国最先端文化と情報を入手し、その先に巨大な国家があることを知っていた。あくまで日本は文明国家中国の周辺部族であった。そして日本にある程度の権力群が生まれたとき、中国に承認されるステイタスを求めて貢ぎ物をはじめる。

そして時代は魏呉蜀の三国時代から晋、そして南北朝の騒乱時代となると中国は内政で手いっぱいとなる。そのころ朝鮮半島は、高句麗新羅百済、そして日本では近畿のヤマト朝廷が北九州権力を押さえつつあり、朝鮮半島周辺は四強のパワーバランスで成り立っていた。

北部の高句麗は中部の新羅百済へ侵略を計る。新羅百済高句麗対応では協力しつつ、南部の任那族群への侵略を狙っている。このような朝鮮半島のパワーバランスの中で、倭国の立ち位置は調停役である。各国代表を日本に招いて会談を開いたりしている。

まだ内政が安定しない中、倭国朝鮮半島侵略まで考えていないが、調停役をうけることで各国から最先端の人材や情報が届けられる。そして倭国は要請を受けて、高句麗へ、また新羅へ軍を送るが、まだまだ組織されたものではなく、選ばれた豪族たちから数千人が応援に向かうぐらいで、これといった戦果もない。




隋唐の律令制と日本国誕生


そのうちに、中国に律令制を重視した隋、そして唐が生まれると朝鮮半島のパワーバランスは一気にくずれる。唐に迎合した新羅が勢力を伸ばし、反発した高句麗百済は唐に滅ぼされる。倭国はそのころやっとヤマト朝廷を中心に数万の軍隊を百済へ送るが、唐の軍隊とは大人と子供の差でまったく歯が立たず、白村江の戦いで大敗する。

唐軍のすごさをまったく理解しておらずに戦略もないのんきな出兵だった。その指揮をとった一人が大化の改新後まもない若き中大兄王子であるが、大敗に衝撃をうけまた倭国まで侵略されることに恐怖しただろう。

中大兄王子=天智天皇以降、日本は唐を真似た律令制の導入を進める。人を管理する戸籍制や土地を計測し分配する班田制を整備するが、その大きな目的は税を集め広く徴兵し巨大な軍隊を造ることであった。唐の侵略に備えて、防波堤、城が造られ、日本に国境に関する強い概念が生まれた。そして倭国天皇のもとに「日本」国として、唐に向かって宣言する。




唐の滅亡と武士の台頭


しかし結局、日本に唐が攻めてくることはなく、軍隊がまともに出動する機会がなかった。その後、二百年は律令制を厳しくする、緩和するの政策の繰り返しとなる。その中で律令制は定着していくが、実質は班田制は行われなくなり軍隊は解散し、やがて地方へ派遣した受領に地方管理をまかせる王朝制へ移行していく。

軍力は外交対策の規律訓練された軍隊から、国内治安のために小さく、そして地方で管理される。そして権力をもった受領は赴任した先の地方豪族と密接な関係を結んでいく中で、主従関係を重視した武士という「日本人的な」武闘集団が台頭する。

イメージ的には、奈良、平安時代辺りは、貴族統治のみやびでのんびり、中世の武士の統治できな臭くなるイメージがあるが、いつの時代も統治とは暴力の集約である。現代も日本国は暴力を、治安に警察、外交に自衛隊と独占することで成立している。武士だけが暴力により権力を奪取したわけではない。それは古代もかわらない。権力闘争で天皇および摂政など権力者は頻繁にかわり、そのたびに権力者が殺されている。

武士の時代の特徴は、地方が豊かになり、誰もが武装可能になる。それまでは上流内の暴力闘争で、庶民は右も左もわからず徴兵されただけであったものが、地域に根ざした主従関係として庶民を広く巻き込んだことにあるだろう。だから武装したのは武士だけではない。一揆により平民、僧侶などみなが武装する。

ここにも中国との関係が深い。唐以降、中国は再び荒れて、侵略の危険が薄れた。10世紀に、唐が滅亡することと、平将門の乱藤原純友の乱など武士が台頭するのは偶然ではないだろ。唐風を目指した日本国が変革期を迎えていた。管理された唐風律令制から日本の土着文化が台頭する。




宋の貨幣経済地方自治の時代


暴力拡散はさらに広く考える必要がある。すなわち富の分散である。地方自治の時代はまた流通網、技術そして市場経済が発展する時代である。もともと島国であり海洋による流通が発達した日本は農業だけでなく、漁業、商業、工業が発達していた。

唐風律令制の強引な導入は租税など農本主義であり、日本の産業構造を抑圧する面があった。さらに唐に続く宋では商業が重視され、宋銭がアジア中に流通しはじめる。日本も海外貿易、国内商業と貨幣経済へと解き放たれていく。

次に日本を恐怖に陥れるのは元寇である。規律訓練され、最新の火力兵器をもった元の軍隊の前に、地方自治隊の集団の武士たちは赤子同然だった。しかしそれも数日のことで、その次の脅威は黒船までない。




参考
日本の歴史をよみなおす(全) 網野善彦 ISBN:4480089292
日本社会の歴史〈上〉 網野善彦 ISBN:4004305004
日本社会の歴史〈中〉 網野善彦 ISBN:4004305012
東アジアの動乱と倭国(戦争の日本史1) 森公章 ISBN:4642063110
武士の成長と院政 日本の歴史07 下向井龍彦 ISBN:4062919079

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